『あなたが世界のためにできるたったひとつのこと』 ピーター・シンガー著

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『あなたが世界のためにできるたったひとつのこと』 ピーター・シンガー著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

 あなたはどんなチャリティーに寄付しますか。見ず知らずの人々の苦しみを和らげるため、稼ぎの大部分を寄贈する。身体の一部さえ提供する。そんなムーブメントがアメリカで起っているという。自己犠牲でも自己満足でもない。冷静に計算し、自分にできる最大の貢献を行なう。そこに生き甲斐(がい)を見いだすポジティヴな生き方である。

 寄付や貢献は情緒的に行うものではない。それが「効果的な利他主義」と呼ばれる倫理である。貧困解消や動物解放を訴えてきた応用倫理学者シンガーは、この新スタイルの実践者たちに瞠目(どうもく)し、そこに世界の希望を見る。

 目に見え、自分の趣味にあった寄付よりも、地球の裏側であっても最大限の効果をあげる方途を考える。シンガーが紹介する生き方や主張の数々は、理性の力を突き詰めたときに生じる逆説のようにも聞こえる。それを鵜呑(うの)みにするのではなく、私たちもまた最大限に理性を働かせて最善の生き方を追求しなければならない。気休めでない、世界を変える貢献とは何か。私たちの常識を揺り動かす挑戦である。関美和訳。(NHK出版、1700円)

読売新聞
2016年1月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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