サスペンスに満ちた火星でのサバイバル劇

レビュー

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火星の人〔新版〕 上

『火星の人〔新版〕 上』

著者
アンディ・ウィアー [著]/小野田 和子 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784150120436
発売日
2015/12/08
価格
691円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

叛逆航路

『叛逆航路』

著者
アン・レッキー [著]/赤尾秀子 [訳]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784488758011
発売日
2015/11/21
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

サスペンスに満ちた火星でのサバイバル劇

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 正月映画は「スター・ウォーズ」の新作が大ヒット中ですが、2月5日には、リドリー・スコット監督の傑作「オデッセイ」がいよいよ日本公開される。

 同じ宇宙ものでも傾向は正反対で、こっちは「ゼロ・グラビティ」系列のリアルなサスペンス。その原作が、アンディ・ウィアーのデビュー長編『火星の人』。2014年に邦訳されて絶賛を集めたが、映画公開に合わせて、上下巻に分冊された新版が出ている。

 主人公は、死んだと思われて火星にひとり置き去りにされたNASAの宇宙飛行士マーク(映画ではマット・デイモンが演じる)。基地はあるものの、地球との連絡は絶たれ、次の船が来るのは4年後。かくて、「火星版ロビンソン・クルーソー」とも評されるサバイバル劇の幕が上がる。

 食糧問題を解決すべくマークが着手するのは、なんとジャガイモ栽培。土作りから水の調達、細菌の世話などの細部と、次々に起きるトラブルとの戦いがめちゃくちゃ面白い。まさか芋づくりがこんなにスリリングなドラマになろうとは。

 途中からは、NASA側の話も加わり、全世界の関心を集める壮大な救出ミッションが立ち上がる。

 苛酷な状況なのに主人公が明るく脳天気な性格なので、語り口はユーモラス。仲間が残していった70年代ディスコ音楽が(映画でも)いい味出してます。映画では説明を省略している箇所や原作を読んでないとぴんと来ない場面があるので、本を先に読むのがお薦め。

 一方、史上最多のSF賞7冠に輝くアン・レッキー『叛逆航路』(創元SF文庫)は、21世紀版「スター・ウォーズ」とも言うべき最新型の宇宙娯楽SF。背景は、専制国家ラドチによる人類支配が銀河に広がった遠未来。主人公ブレクは巨大な兵員母艦にして4000人の人体を同時に操る超高度な人工知性だったが、19年前に船を失い、今はひとりの人間に身をやつし、実行不可能な使命に挑む……。

 設定が凝ってる分スロースタートですが、150ページを過ぎるとあとは一気呵成。細部もかっこよくて、7冠も納得の快作。

新潮社 週刊新潮
2015年2月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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