『ガラパゴス』
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現代日本の暗部を抉る禁断の正調社会派ミステリー
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
BSE(狂牛病)問題と食品偽装事件をテーマにした告発系の社会派ミステリー『震える牛』の続篇。
表題から誰しも固有の進化を遂げた生態系で知られる東太平洋の島々を思い浮かべようが、ここでは製品や技術が外部との互換性を失って孤立し、取り残されることを意味する経済用語のほうを指す。
田川真一は迷宮入り寸前の殺人事件を扱う警視庁捜査一課継続捜査班の警部補。殺人事件とはいえ、彼の所属する第七係の仕事は地味なものばかりだったが、捜査一課から鑑識課に異動した同期の木幡(こわた)祐治(ゆうじ)に泣きつかれ身元不明相談室を手伝う過程で、二年前、足立区竹の塚団地で発見された自殺死体が実は毒殺であることを見抜く。
田川と木幡がその捜査に乗り出した頃、警視庁捜査一課特殊犯捜査係、通称SITに所属する鳥居勝は、著名な美容外科クリニックの弱みを突いて警察官の再就職の根回しに励んでいた。鳥居はまた、郷里の学校の先輩である大手人材派遣会社のトップ・森喜一と組んでおり、過酷な人員整理を断行する自動車の中堅メーカー・トクダモーターズの秘密を握って、その懐に入り込んでいた。
やがて毒殺被害者は沖縄県出身の派遣労働者であることが判明、その背後に森やトクダモーターズという黒幕が存在することは序盤から明かされる。その意味では、捜査小説であると同時に倒叙形式の謎解きものともいえよう。著者はそのスタイルを駆使して、ハイブリッドカーに象徴される日本独自の技術が実はガラパゴス化していることを明かしていき、それを推し進める企業が労働者を食い物にしているという地獄の現実も容赦なく暴き出して見せるのだ。
社会派ミステリーとしては松本清張伝来の正調スタイルだが、名古屋弁を操る鳥居を通してユニークな悪徳警官ものとしても楽しめる。前作同様、インパクト充分の衝撃作だ。悲運の被害者像に図らずも落涙。