【教養人のための『未読の名作』一読ガイド】ソネット集 [著]シェイクスピア[訳]高松雄一

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ソネット集

『ソネット集』

著者
シェイクスピア [著]/高松雄一 [訳]
出版社
岩波書店
ISBN
9784003220559
発売日
1986/11/17
価格
778円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【教養人のための『未読の名作』一読ガイド】ソネット集 [著]シェイクスピア[訳]高松雄一

[レビュアー] 渡部昇一(上智大学名誉教授)

 キャメロン首相がイギリスの教育を論じて、シェイクスピアをもっと重視すべきであるという趣旨のことを述べたらしい。「イギリスはインドを失うことがあろうともシェイクスピアを失うべからず」と言ったのはカーライルであったろうか。イギリスは確かにインドを失ったけれども、シェイクスピアは世界中で読まれ、その主人公たちの名前は日常の会話にも出てくるぐらい有名になっている。

 ところでそのシェイクスピアを人名辞典でみると、必ず最初に「イギリスの劇作家・詩人」と出ている。劇作家であることは解り切っていることだが、詩人というのは何のことだろうと考える人もいるかも知れない。英文科の人間なら彼の詩は読んだことがないにしろ、彼には『ソネット集』があることを知っている。齋藤勇博士は、これを「イギリス文学史上最大のsonnets連章」と評価しておられる。

 ソネットというのは元来イタリアで始ったものであるが、イギリスでは十四行詩になった。シェイクスピアの『ソネット集』は百五十四編あり、この詩を作者の自伝的告白とするものやら、いろいろ推測する仮説があるがそれは専門家にまかせよう。そこに述べられているシェイクスピアの詩想と詞藻の卓抜さと豊かさに感銘すれば十分なのである。私は大学一年生の時、トマス・ライエル教授のクラスで暗誦させられたことを今でも感謝している。たとえばソネット十九番に示されている「詩の永遠性」に対するシェイクスピアの信念は古典文学の本質を継承するものではないだろうか。ところどころ意訳しながら引用してみよう。

 貪欲な時よ、お前はライオンの爪ある足をも鈍らせ、大地の生み出したものを大地に還元させ、獰猛な虎の顎骨から鋭い牙をもぎとったりもする。足早の時よ、お前は何でも勝手にやってもよいが、私の恋人の美しい額に時を刻みこむような悪事は許さぬぞ。

 だが老ぼれの時よ、お前がどんな悪さをしようとも

 私の恋人は私の詩の中では永遠に若く生きているのだ。

新潮社 週刊新潮
2016年2月11日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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