『蘇我氏の古代』 吉村武彦著/『蘇我氏―古代豪族の興亡』 倉本一宏著

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蘇我氏の古代

『蘇我氏の古代』

著者
吉村 武彦 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784004315766
価格
864円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

蘇我氏 : 古代豪族の興亡

『蘇我氏 : 古代豪族の興亡』

著者
倉本 一宏 [著]
出版社
中央公論新社
ISBN
9784121023537
価格
864円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『蘇我氏の古代』 吉村武彦著/『蘇我氏―古代豪族の興亡』 倉本一宏著

[レビュアー] 清水克行(日本史学者・明治大教授)

悪のイメージ実際は?

 聖徳太子が日本古代史のヒーローだとすれば、蘇我氏はその敵役。天皇を蔑(ないがし)ろにし、専横をきわめた挙句(あげく)、645年の「大化の改新」で滅び去った悪の一族、といったイメージだろうか。

 昨年12月、わずか2日違いで、新書の老舗、岩波と中公から蘇我氏についての新書が刊行された。べつに蘇我馬子や入鹿が映画やドラマの主人公になるという話があるわけでもなく、これはまったくの偶然なのだそうだが、この奇妙な一致が話題をよび、相乗効果で両書ともに売れ行き好調とのこと。そこで、この機会に両書を読み比べてみた。

 まず、岩波の『蘇我氏の古代』は、蘇我氏を軸にして、「大化の改新」以前の日本古代史を過不足なく叙述している。古代史、蘇我氏の最新の研究動向をつかむには、こちらが最適。巻末の蘇我氏と藤原氏の比較論は秀逸で、天皇の外戚という地位を利用し権力確立しながらも、数代で滅んだ蘇我氏と、その後1000年にわたって栄えた藤原氏の明暗を分けたものは何だったのか、納得できる説明が加えられている。

 一方、中公の『蘇我氏―古代豪族の興亡』は、蘇我氏の一族関係に注目しているところがユニーク。蘇我氏の庶家に注目すれば、645年の政変で滅亡したのは本宗家だけであって、蘇我氏は決して滅亡してはいない。むしろ、政変の背景にも、蘇我氏内部の本宗家と庶家の対立があったという。本書の筆は、最後には「平安時代の蘇我氏」(!)にまでおよぶ。総じて本書のほうが、基本史料『日本書紀』にかなり懐疑的な姿勢をとり、「蘇我氏悪玉説」に大胆な異議申し立てをしている。

 スタンダードな岩波『蘇我氏の古代』に対し、野心的な中公『蘇我氏―古代豪族の興亡』。どちらの著者も一般向け著書を数多く刊行しており、読みやすさに優劣はない。両書のお値段は、これまた奇(く)しくも同じ800円!

 さて、皆さんは、どちらを手に取りますか?

 『蘇我氏の古代』

 ◇よしむら・たけひこ=明治大教授

 岩波新書 800円

 『蘇我氏―古代豪族の興亡』

 ◇くらもと・かずひろ=国際日本文化研究センター教授。

 中公新書 800円

読売新聞
2016年1月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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