小野不由美さんが語る「ホラー愛」――ハマった『呪いのビデオ』シリーズ〈映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』公開記念対談(1)〉

対談・鼎談

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残穢

『残穢』

著者
小野, 不由美, 1960-
出版社
新潮社
ISBN
9784101240299
価格
649円(税込)

書籍情報:openBD

小野不由美さんが語る「ホラー愛」――ハマった『呪いのビデオ』シリーズ〈映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』公開記念対談(1)〉

映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』

 映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』が現在、全国公開されている。中村義洋監督(『白ゆき姫殺人事件』『予告犯』)にとって久々の本格的ホラーとなるこの作品の公開を機に、原作者・小野不由美さん(「十二国記」『屍鬼』)と「ホラー愛」を語り合った。

 ***

 大のホラー映画好きとして知られる小野さんと中村監督は、実は、ある作品を通じて十数年前に出会っていた。それは監督が1999年、“一般投稿により寄せられた戦慄の映像集”という触れ込みで立ち上げた『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズだった。

【小野】 『呪いのビデオ』は全作、観ています。たまたまウェブで観たら面白くて、当時発売されていたDVD十数巻を一気買いしました。以来、ずっと新作を追いかけています。私は70年代に放送されていた『木曜スペシャル』の心霊特集が大好きだったんですが、それに相通じる“匂い”を感じました。それ以前の心霊写真は、○をつけないと霊の場所が分からないような写真だったのが、実にくっきりと映っている。「幽霊のイメージって、これだよね」と感じて、ハマリました。

中村義洋監督中村義洋監督

【中村】 僕もそういう世界が好きだったんですよ。『呪いのビデオ』シリーズを作る時は、『木曜スペシャル』や『アンビリバボー』の心霊特集を意識していました。もっとも、ドキュメンタリーという設定は、単に「一般投稿」と謳えばホラー好きの興味を引くかと思っただけなんですが(笑)。

【小野】 『残穢』を出版した時に、担当編集者が「映画化したいですね」と言い出しました。私は夢みたいなことを言う人だなと思いましたが(笑)、「どうせ夢なら、中村監督が撮ってくれたらいいね」と冗談半分で返信したら、私が『呪いのビデオ』を全巻観ていることも書き添えて、本当に監督に本を送ってしまったんです。

【中村】 これまでのオファーで一番うれしかったですね。『呪いのビデオ』は、映画監督としてまだ認められてない時代の作品ですから。仲間内では「ホラーマニアだけじゃなく一般の人にも評価されるべき作品だ」と鼻息が荒かったんですが、反響は全くなかった(笑)。

【小野】 いわゆる、ホラーとは「別枠」に分類されてしまっていたんですね。

【中村】 『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』と同じ99年の作品で、まだ日本ではフェイクドキュメンタリーという言葉さえあまり使われていない頃でしたしね。

【小野】 日本にはすでに88年の『邪願霊』という先行例があって、『ブレア・ウィッチ』を観た時には、「このやり方はとっくに知ってるよ」という感じだったんです。『木曜スペシャル』も同様の手法でしたし。元々、日本人には、本物と作り物の「グレーゾーン」に対する親和性があるのかもしれません。

■「もう一度ホラーをやってみようかという気になってきた」

映画『残穢』で小説家の「私」を演じる竹内結子さん映画『残穢』で小説家の「私」を演じる竹内結子さん

【中村】 それでも、『呪いのビデオ』の第1巻、第2巻を作っている頃は、犯罪に手を染めているような後ろめたさがありました(笑)。監督生命を奪われるんじゃないかと。でも、1巻10作品にどれも幽霊がくっきり映っていたら、嘘をつくつもりだと分かってもらえるかなと。『邪願霊』も、竹中直人さんが番組ディレクターという時点で本物のドキュメンタリーでないと気づく。それでも100%作り物と決めつけられない部分があるんです。

【小野】 作り物くさいけど、これに類することは実在するのでは、と思うことはありますよね。

【中村】 僕が『呪いのビデオ』を作っていたのは、2000年8月の「スペシャル」まで。『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』はそれ以来の本格的なホラーで、本当に久しぶりなんです。実は、ホラーを離れた時には、かなりの覚悟で離れた。(『本当にあった怖い話』『リング』監督の)中田秀夫さんは、『ガラスの脳』のような恋愛物を撮っても怖い。普通に撮るだけでホラーになっている(笑)。ところが、僕が普通に撮って普通に編集すると、全く怖くない能天気な世界になってしまうんです。お客さんが求める怖いホラーを撮ろうとすると心身にかなりの負荷がかかって、疲れてしまう。それで、次第にホラーを断るようになりました。久々に『ルート225』という普通の映画を撮った時には、撮影中、すごく体が軽かったですね(笑)。ところが数年前から、もう一度ホラーをやってみようかという気になってきた。そこに『残穢』の話をいただいたんです。

調査を開始する「私」(竹内結子)と久保さん(橋本愛)調査を開始する「私」(竹内結子)と久保さん(橋本愛)

【小野】 完成した映画『残穢』を拝見して、まさにこういう映画が観たくてこの小説を書いたんだ、と感激しました。心霊ドキュメンタリーというのは、調査を進める過程で作り過ぎるとわざとらしくなるし、逆に全く作らないと面白くなくなる。中村監督は、その緩急のつけ方がうまいんです。今回、映像として一番凄いなと思ったのは、過去に自殺した女性の存在感。顔全体が皺になっているような表情が素晴らしかった。あの役者さんを選んだこともすばらしいと思います。

【中村】 あの役は、『情熱大陸』級の真剣さで、何度もオーディションしました。十数年ぶりにホラーをやって、怖くないねと言われるのは嫌だから、怖くできるところは全部底上げした。友三郎、トシヱ、中村美佐緒という過去の因縁に関わる役柄のキャスティングは、凄い回数オーディションをやりましたね。

(2)へ続く

 ***

『残穢』ストーリー
 小説家である「私」(竹内結子)のもとに、女子大生の久保さん(橋本愛)という読者から、1通の手紙が届く。「今住んでいる部屋で、奇妙な“音”がするんです」。好奇心を抑えられず、調査を開始する「私」と久保さん。すると、過去の住人達が、自殺や心中、殺人など、数々の事件を引き起こしていた事実が浮かび上がる。そして、最後に二人が辿りついたのは、すべての事件をつなぐ【穢れ】の、驚愕の正体だった……。

「特別読物 映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』公開記念 小野不由美(原作者)×中村義洋(監督)対談 私たちがホラーにハマる理由」より

新潮社 週刊新潮
2016年2月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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