撮影現場で起こった“3つの怪異”〈映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』公開記念 小野不由美×中村義洋対談(3)〉

対談・鼎談

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残穢

『残穢』

著者
小野 不由美 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101240299
発売日
2015/07/29
価格
637円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

撮影現場で起こった“3つの怪異”〈映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』公開記念 小野不由美×中村義洋対談(3)〉

映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』

 映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』の公開を記念し、中村義洋監督と原作者・小野不由美さんが「ホラー愛」を語り合う。最終回となる今回は、作り手の“怖がらせる”テクニック、そして『残穢』で監督が試みた狙いについて。撮影現場で起きた、怪奇現象とは……?

 ***

【中村】 作り手の側では、「この世ならざるもの」に遭遇した時の違和感をどう表現するのかをずいぶん研究してきました。透けさせるとか、二次元的な写真をそのまま使うとか。僕が『呪いのビデオ』を作っていた時は、まだ緻密な合成ができない時代だったので、プロジェクターを活用しました。いろいろ試したけどプロジェクターに勝るものはなかった。例えば、人型を天井と手前の壁に映写するんですが、境目で段差になるから、明らかにプロジェクターなんですよ(笑)。でも、ホラー好きの感想は「それが怖かった」と。プロジェクターの動かし方に失敗しても「なに、あの動き! カクついて怖い」となる。これは、Jホラー固有の感覚かもしれません。

【小野】 カメラワークも大事ですよね。

【中村】 霊がずっと映っていたら怖くもなんともないので、一瞬だけ見せて次にカメラを振った時にはいない、という演出。でも、それを狙ってカメラワークが不自然になることがあります。

映画『残穢』で久保さんを演じる橋本愛さん映画『残穢』で久保さんを演じる橋本愛さん

■一瞬、映る

【小野】 中村監督の場合はカメラを動かす必然性があるんですが、最近の粗製されている心霊映像を見ると、なぜそこで急にカメラを動かすんだ、なぜ急に戻すんだ、とツッコミたくなるものもありますね。

【中村】 この「一瞬、映る」カメラワークは、心霊ドキュメンタリーというジャンルとともに生まれたものですね。

【小野】 中村監督ではなかったけれど、『呪いのビデオ』(※中村監督が立ち上げ、小野さんがハマった『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズのこと。詳しくは(1)を参照)で、事故で亡くなった女性のすぐ脇を男子二人が通り過ぎるシーンがあって、彼女の姿は尋常ではないんですが、男子たちはそこに何かが存在することに全く気づかない体(てい)で通り過ぎる。それだけで、この世ならぬものを見事に表現していたんです。『呪いのビデオ』は、本当にいろいろなホラー表現の実験の場だと感じました。心霊ビデオにも流行り廃りがあって、少し前までは怪異が映っているのに撮影者は気づかない、という設定が主流だったのが、今は気づくパターンが流行ですね。

【中村】 気づくパターンは、気づいた瞬間の演技とか難易度が高いんです。

【小野】 中村監督の演出がうまいのは、証言している人が芝居をしているように見えないところ。「おとうさん」という作品だったか、主人公のお母さん役がすごく自然で、喋っているのを聞くと、実際にあったことにしか思えませんでした。

【中村】 ああ、あれはうちの母ですね(笑)。スタッフの家族や知り合いは、ほぼ出演してます。みんな素人ですが演技力には傾向があって、教師が一番うまい。演技がダメな時はすぐに分かるので、映像をぼかしてアフレコしたり。うまいけどもう一息という場合には、同じ質問を何度も聞くんです。「顔が壁に映ったという話ですが、どの壁ですか?」「なるほど、で、どの壁なんですか?」と何度も繰り返すと、向こうも「だからっ!」と芝居のテンションじゃなくなってくるんです。

撮影中の中村義洋監督撮影中の中村義洋監督

■2、3日はすごく怖い

【小野】 『残穢』でも、町内会長さんの芝居などは、本当に自然でしたね。

【中村】 セリフがなかなか出てこなくて、大変だったんですけどね(笑)。芝居以上に今回難しかったのが、幽霊をどうやって出すか、ということでした。

【小野】 基本、出てこないですからね(笑)。

【中村】 でも、ここぞという場面では『呪いのビデオ』でやれなかった“夢の合成”でチラリと出してます。

【小野】 背景にさりげなく映りこんでいるというのは、それに気がついた時、すごく怖い。でも、作り手の側からしたら、勇気が要りますよね。気づかれなかったら意味がないから見せたいけど、ちゃんと見せてしまったら意味がないし。

映画『残穢』での1シーン。左から坂口健太郎、佐々木蔵之介、竹内結子、橋本愛映画『残穢』での1シーン。左から坂口健太郎、佐々木蔵之介、竹内結子、橋本愛

【中村】 映画は、DVDとは違ってその場でもう一回再生できないですからね。今回、プロデューサーとは、ホラーは一人では観にこないだろう、何人かで観にきて、そのうちの一人が気づくくらいがいいだろう、と話していたんです。そうすれば、気づかなかった人たちがもう一回、観に来るだろうと(笑)。

【小野】 それって、心霊スポットに行く人たちの行動と同じですね。数人で行って、なかの一人が「あそこに変な人いたでしょう」、他の人たちが「えっ、見てない、見てない!」というのと同じ。見てしまった人と、見えなかった人が、同じ怖さを共有している。

【中村】 映画の最後5分くらいは、ホラーの“お約束”を敢えてやってみた、という感じで、けっこうはっきり見せてます。それ以前は「回想」という設定で、いくら怖いシーンでも現在進行形の怖さではない。最後に話がようやく「現在」に戻ったところで、100分間やれなかったことを思い切りやりました(笑)。ただ、「2、3日はすごく怖かった」というのが、『残穢』を観た人の平均的な感想でした。4日目以降は大丈夫のようなので、安心して観ていただきたいですね(笑)。

女子大生の久保さん(橋本愛)の部屋女子大生の久保さん(橋本愛)の部屋

■現場での“3つの怪異”

【小野】 撮影の現場で奇妙なことがあったとか?

【中村】 現場というより後で発覚したんです。たとえば、タクシー車内のシーンで誰のものか分からない手がすっと映りこんでいる。スタジオで編集作業をしている時にも、女の人が空中で囁いているのを、何人かのスタッフが聴いています。別の映画のデータが出たんじゃないのとか笑っていましたが、スピーカーの位置からそれはあり得ないんです。3つ目は、「私」役の竹内結子さんと「久保さん」橋本愛さんがカフェで話しているシーン。竹内さんのヌケ(背景)に、まっすぐこちらを見て仁王立ちしている人物が映りこんでいるんです。撮影時にそういう不審人物がいたら、カメラマンもモニターを見ている僕も気づかないわけはないんです。ヌケにはエキストラを通したりしているので、仁王立ちしていたら助監督が注意するはずなんですよ。

 そんな怪異の真偽は、ぜひ劇場でお確かめを。

原作は山本周五郎賞受賞作『残穢』(新潮文庫刊)原作は山本周五郎賞受賞作『残穢』(新潮文庫刊)

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『残穢』ストーリー
 小説家である「私」(竹内結子)のもとに、女子大生の久保さん(橋本愛)という読者から、1通の手紙が届く。「今住んでいる部屋で、奇妙な“音”がするんです」。好奇心を抑えられず、調査を開始する「私」と久保さん。すると、過去の住人達が、自殺や心中、殺人など、数々の事件を引き起こしていた事実が浮かび上がる。そして、最後に二人が辿りついたのは、すべての事件をつなぐ【穢れ】の、驚愕の正体だった……。

「特別読物 映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』公開記念 小野不由美(原作者)×中村義洋(監督)対談 私たちがホラーにハマる理由」より

新潮社 週刊新潮
2016年2月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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