『破綻からの奇蹟 いま夕張市民から学ぶこと』森田洋之著

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『破綻からの奇蹟 いま夕張市民から学ぶこと』森田洋之著

[レビュアー] 佐藤好美(論説委員)

■病院縮小後の地域医療は

 
 あの北海道夕張市の「その後」についての本が、地域医療に携わる関係者の間で評判になっている。著者は夕張市立診療所に勤めた医師、森田洋之氏だ。

 夕張市が財政破綻したのは平成19年。市立総合病院の171床のベッドは、19床の診療所と介護保険施設に縮小された。外科や小児科などの診療科はなくなり、高度な医療機器もなくなった。で、どうなったか-。

 医療を引き継いだ村上智彦医師は肺炎球菌ワクチンや口腔(こうくう)ケアを導入。予防医療で高齢者の肺炎死を激減させた。介護を充実し、訪問診療を始めた。森田医師はそれにひかれ、南国、宮崎から赴任した。

 病院縮小は当初、住民に不評だった。だが、“大病院”が遠くなった代わりに、訪問診療をする医師との距離は近くなった。病院死が、施設や在宅での看取(みと)りに移行し、住民は最期まで家で暮らすことを重視するようになる。

 豊富なデータを基に、森田医師は夕張市の死亡率は横ばいであること、老衰死が増え、医療費が低下したことを示す。医療の話はとかく難しくなりがちだが、本書は2人の聞き手に講義する設定。誰よりも一般の人に、大病院が健康のよりどころではないことを伝えたかったのだろう。

 夕張は実は、炭鉱を目指して、人が全国から流入した都市型の町だ、という分析が新鮮だ。核家族の延長線上で単身者が多い。40%を超える高齢化率も、持ち家率の低さも「高島平団地(東京都板橋区)に近い」という。そんな場所で最期まで家で生活するカギとして提唱されるのが、「きずな貯金」だ。地域に人間関係を築き、それを高齢期に活用し、ゆるやかな見守りの中で暮らしを継続する。

 孤独死についても、森田医師は「問題は孤独であって、死ではない」という。生活が孤独なのは問題だが、人の行き来や交流があったなら、死の瞬間に1人でも悲壮感はない、というわけだ。夕張の現在に、都市部の将来が重なる。決して夢物語ではないところが、地域医療の関係者をひきつける理由だろう。アマゾンで販売。(南日本ヘルスリサーチラボ・1200円+税)

 評・佐藤好美(論説委員)

産経新聞
2016年2月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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