伊坂幸太郎絶賛の奇妙で心震えるデビュー作

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レプリカたちの夜

『レプリカたちの夜』

著者
一條 次郎 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103398714
発売日
2016/01/22
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

伊坂幸太郎絶賛の奇妙で心震えるデビュー作

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 深夜の工場でシロクマが動く冒頭に引き込まれ、読み進めていくうちに奇妙な世界に迷い込んでいた。一條次郎の『レプリカたちの夜』は、第二回新潮ミステリー大賞を受賞した作品だ。選考委員の伊坂幸太郎に「ミステリーかどうか、そんなことはどうでもいいなあ、と感じるほど僕はこの作品を気に入っています」と言わしめた問題作でもある。

 舞台はあらゆる動物が国際的に保護され、無許可の飼育や乱獲が固く禁じられているもうひとつの日本。動物のレプリカを製造する株式会社トーヨーに勤める往本(おう もと)は、残業中に動くシロクマに遭遇する。野生のシロクマは絶滅していて、工場に現れることは普通ならありえない。ところが、工場長も廊下を二本足で歩くシロクマを目撃していた。レプリカなのか、ほんものなのか。工場長は往本にシロクマの正体をつきとめるように命じるが……。

 この工場はほんとうに変だ。部長は三ヶ月前に失踪しているが、誰も探している気配はない。人事部はどこかにあるのかもしれないが、知っている人はいないという。工場長はシロクマをスパイと決めつけ、同僚は居眠りする上司が座ったイスを何度も回転させる。往本はドッペルゲンガーを見てしまう。

 登場人物の発言も一切信用できない。たとえばシロクマの絶滅に関する話。往本は〈シロクマのいる動物園なんて、世界でもみっつぐらいしかないしね〉と思っていたのに、工場長は〈動物園のシロクマはおととし死んだよ。世界最後のシロクマだった〉と訂正し、同僚は〈シロクマなんてどこにでもいるじゃん〉と言うのだ。作中の現実がどこにあるのかわからなくて混乱すると同時に、物語の展開も全く予測できず胸が躍る。

 シロクマが再び姿を現し、ほんものとレプリカの境界が崩壊する後半には震撼した。読者を一時も安心させない小説だが、そこが得も言われぬ魅力になっている。

新潮社 週刊新潮
2016年2月18日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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