『新しい須賀敦子』 江國香織、松家仁之、湯川豊著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

新しい須賀敦子

『新しい須賀敦子』

著者
松家仁之 [著]/江國 香織 [著]/湯川 豊 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784087716320
発売日
2015/12/04
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『新しい須賀敦子』 江國香織、松家仁之、湯川豊著

[レビュアー] 長島有里枝(写真家)

文章で写し取った人

 須賀敦子の文章を読むと、彼女自身のことをもっと知りたいと思ってしまう。最初のエッセイ集『ミラノ 霧の風景』を読んだとき、その文体の美しさに魅了されると同時に、対象に向ける視線のありように感銘を受けた。須賀さんの文章は、モノクロのスナップショットに似ている。日常を切り取った美しい階調の印画紙は完璧だが、色彩を想像する余地を残している。

 須賀さんは、どんな人だったのか。どのような家に生まれ育ち、どんな性格だったのか。文章から想像すると、寡黙で意志が強く、優しい人だったんじゃないだろうか。彼女の随筆には実在の友人や家族のこと、彼らと暮らした時間や場所のことが存分に書かれているのに、まだ知りたいなんて単なるミーハー根性かもしれないし、手に入る著作を片っ端から読めば、事は足りるのかもしれない。でも、写真にうつるものが決して「真実」ではないように、随筆に書かれたこともまた、同じなのではないか。

 二〇一四年に開催された「須賀敦子の世界展」に際しておこなわれた対談と、講演が収録される本書には、わたしの知りたかったことが書かれている。例えば、江國香織さんは、事実を書くためにフィクションという手法をとるのが最適だと、須賀さんが確信していたのではないかと、須賀さんの担当編集者だった湯川豊さんに語っている。写真は撮影者の見た「事実」だけを写し取り、編集された写真群は物語を生む。須賀敦子の文章は、これと似ている気がする。

 著者三人の語りのところどころで、須賀さんの人となりを垣間見ることができて嬉(うれ)しい。彼女がよく喋(しゃべ)る人であったこと。落語や、車の運転が好きだったこと。幼い頃から正義感が強く、正しくないと思えば父親にも歯向かったこと。興味のあることにはとことんのめり込む、勇敢で情熱的な女性。そんな彼女を想像したうえでエッセイを読んでみると、やはりそれは須賀敦子の書いたものだと思えるから不思議だ。

 ◇えくに・かおり=1964年生まれ ◇まついえ・まさし=58年生まれ ◇ゆかわ・ゆたか=38年生まれ。

 集英社 1600円

読売新聞
2016年2月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加