『若い読者のための第三のチンパンジー』 ジャレド・ダイアモンド著 レベッカ・ステフォフ編著

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若い読者のための第三のチンパンジー

『若い読者のための第三のチンパンジー』

著者
ジャレド・ダイアモンド [著]/レベッカ・ステフォフ [著、編集]/秋山勝 [訳、解説]/長谷川眞理子 [解説]
出版社
草思社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784794221759
発売日
2015/12/12
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『若い読者のための第三のチンパンジー』 ジャレド・ダイアモンド著 レベッカ・ステフォフ編著

[レビュアー] 岡ノ谷一夫(生物心理学者・東京大教授)

人間は真に成功したか

 人間の過去と未来についての本をただ一冊読むのであれば、私は躊躇(ちゅうちょ)なく本書を推薦する。著者は文明論と生物学を融合させた数々の著作で思想界に大きな影響を与えてきた。本書は著者・ダイアモンドの初期の作品、『人間はどこまでチンパンジーか?』(新曜社)をぎゅっと絞って底本とし、その後発表してきた著作のエッセンスを溶かし込んだ一冊である。

 第三のチンパンジーとは私たち人間だ。系統発生的には、私たちは人間という種族であるよりも、類人猿の一種であるというべきなのだ。その私たちが、なぜ地球上でここまでの〈成功〉を収めてしまったのか。これが本書のテーマである。この成功は果たして真の成功なのか?

 前半では、まず、人類進化史が概観される。人種があるのはなぜか、人間の寿命が高々100年なのはなぜか、人間の排卵が隠蔽されているのはなぜか。こういった疑問が、進化生物学の理論により強い説得力で解かれていく。

 後半では言語の生物学的な起源から文明の特異性を考察する。農業が階級と差別を作ってきたこと、言語が武器と殺戮(さつりく)につながったことを説く。仮に宇宙に人間を超えた文明があったなら、人間を滅ぼしにかかるだろう、だから宇宙文明の探索は危険だと著者はいう。事実、人間と西洋文明も、多くの種、民族、文明、言語、集団を、劣った物として滅ぼしてきたのだから。

 人間の協調性と親和性が、同時に人間の残虐性を生む。内集団を自衛し、正当性を主張し、外集団との差異を強調することで、人間は残虐となれる。私たちは人間という種に備わったこれらの性質を常に自覚せねばならない。

 著者はしかし、人間に絶望しているわけではない。進化生物学から文明論を見ることで、ドイツの政治家ビスマルクが回想録に残した言葉を科学者として実践しているのだ。

 「私の子どもと孫へ。過去を理解し、将来の手引きとするために」。秋山勝訳。

 ◇Jared Diamond=米国の進化生物学者◇Rebecca Stefoff=米国の歴史科学作家。

 草思社 1800円

読売新聞
2016年2月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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