『メソポタミアとインダスのあいだ』 後藤健著

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メソポタミアとインダスのあいだ

『メソポタミアとインダスのあいだ』

著者
後藤 健 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784480016324
発売日
2015/12/14
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『メソポタミアとインダスのあいだ』 後藤健著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

二大文明結んだ交易

 中学生の時に「世界の歴史」(旧版、中央公論社)を読み、世界最古の文明、シュメールから始まる物語に胸が高鳴ったことを覚えている。本書は木材、石材、金属などの物資に欠けていたメソポタミアに、なぜ最古の文明が誕生したかを交易ネットワークから解き明かした野心作だ。

 四大文明は“御三家”や“七福神”のように「教育者による思いつきに過ぎない」と著者は言う。世界には多様な文明があった。その中で、重要な鍵を握るのが、著者がトランス・エラム文明と呼ぶイラン高原の文明だ。スーサという交通の要衝を基点に始まった文明は、陸上交易を担いメソポタミア文明に必要物資を供給する役割を果たした。著者は、土器などの出土品の丁寧な分析と文献史学を手掛かりに、大胆にもインダス文明も、イラン高原の文明を担った人々が立ち上げたと推論する。

 同様に銅を産出するオマーン半島の文明もイラン高原の人々が立ち上げ、ここにインダス川からアラビア湾を経てメソポタミアに通じる海洋交易ルートが確立。イラン高原とアラビア湾の彼方(かなた)という二方面の隣人が産物を安定供給し、メソポタミアの繁栄は確たるものになったのだ。

 インダス文明が崩壊する紀元前1800年頃には、東方の物資の供給ルートも衰亡する。だが、メソポタミア文明は、ユーフラテス川の上流を開発し西方の産物(キュプロスの銅、シリアの杉材など)を入手してそれに代替したという。交易ネットワークに着目して、世界最古の文明の繁栄の秘密を鮮やかに解いた著者の力量には脱帽せざるを得ない。

 西アジア最古の領域国家(ペルシャ帝国)はメソポタミアの都市国家から単純に進化したわけではないとの説もあるが、トランス・エラム文明が母体となったと解すれば合点がいくのではないか。中東の焦点のイラン、その始原を、インダスとメソポタミアを結ぶミッシングリンクとしての高原の文明に確認した壮大な物語が、歴史好きの血を騒がせる。

 ◇ごとう・たけし=1950年生まれ。東京国立博物館特任研究員。専攻は西アジア考古学。中東各地で調査に従事。

 筑摩選書 1700円

読売新聞
2016年2月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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