『東京湾岸畸人伝』 山田清機著

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東京湾岸畸人伝

『東京湾岸畸人伝』

著者
山田清機 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784023314672
発売日
2015/12/18
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『東京湾岸畸人伝』 山田清機著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

傍にある人生を描く

 取材に向かう著者の佇(たたず)まいに、読みながら惚(ほ)れ惚れする。

 『心が迷い出しそうになると、私は無性に東京湾岸の風物の中に身を置きたくなる』

 そう語る著者は、あるときは夜明け前の築地、あるときは京浜工業地帯の終着駅、そして、木更津や羽田空港に臨む汽水域に、いつも潮風に吹かれて立っている。

 本書はタイトルにある通り、東京湾岸に生きる少し風変わりな人々の営みを、情感溢(あふ)れる筆致で描いた人物ルポである。描かれるのは、「築地のヒール」と呼ばれる仲卸の男や「東京最後の漁師町」の老漁師など、海を生業にする人たちだけではない。アルコール依存症の治療で入院するテレビCMの元ディレクター、馬堀海岸に暮らす能面師といった面々も登場する。誰もが少し厄介で、個性的だ。

 彼らに共通するのは、凄(すさ)まじい速さで変化してきた都会の裏通りのような場所で、敢(あ)えて取り残されて生きる人々であること。だから、なのだろう。「ミナトはねぇ、ひとつの長屋なんです」「海の畑にゃ夢があるんだよ」……著者が引き出す言葉からは、たとえ効率性や合理性からはほど遠くても、そのようにしか生きられない、という人間の生き様が伝わってくる。そしてその一本気な姿が共感を以(もっ)て描かれるとき、そこに漂う懐かしさのなんと味わい深いことか。

 著者はおそらく、東京湾岸の町の持つそんな郷愁に誘われるように、この人々をめぐる旅を続けたのだろう。ゆえに六話からなる一つひとつのルポは地下水脈のように繋(つなが)り合い、全てを読み終えたとき、一個の作品として何かが立ち上がってくるような感動を私は覚えた。

 その「何か」とは、語られ、描かれるべき人生というものが、私たちの傍(そば)にはいつもこのようにあるのだというメッセージだ。そして、それはこの社会を懸命に生きる人々に向けて、著者が贈ろうとした応援歌でもあるに違いない。

 ◇やまだ・せいき=1963年生まれ。ノンフィクション作家。著書に『東京タクシードライバー』。

 朝日新聞出版 1600円

読売新聞
2016年2月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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