安倍晋三「迷言」録 政権・メディア・世論の攻防 [著]徳山喜雄

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

安倍晋三「迷言」録

『安倍晋三「迷言」録』

著者
徳山 喜雄 [著]
出版社
平凡社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784582858020
発売日
2016/01/18
価格
858円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

安倍晋三「迷言」録 政権・メディア・世論の攻防 [著]徳山喜雄

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

「放っておいていいの?」「構わない。彼女、ああいうキャラだから」という会話を耳にした。キャンパスですれ違った女子学生たちだ。“彼女”が何をしたのか知らないが、「キャラだから」で見過ごせるなら、まあ、大丈夫なのだろう。しかし、これが一国の首相となるとそうもいかない。

「議論は深まった」「私は総理大臣なんですから」「早く質問しろよ!」など迷言の山だ。著者が“アベ流言葉”の特徴だという、「断定口調」「レトリック」「感情語」の3点に納得すると同時に、“キャラ”として放置しておくことの危うさを強く感じた。何しろ政治は言葉なのだから。

 安倍首相が「積極的平和主義」と言い出した時、本書にも登場する、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』を思った。物語の舞台となる全体主義国家が掲げる、「戦争は平和だ」「自由は屈従だ」「無知は力だ」のスローガン。平和のために戦争ができる国にしたのは、まさに「戦争は平和」の体現化である。

 本書は文字通りの首相迷言集ではない。発する言葉を目に見える“症状”とするなら、それが伝える “病状”はいかなるものなのか。著者は隠された“病巣”の指摘も含め、主治医のごとく鋭い診断を下していく。

 しかも“患者”は首相だけではない。暴言を繰り返す政治家たち、政府広報化するマスメディアにもメスを入れていく。「無知は力」とならないための一冊だ。

新潮社 週刊新潮
2016年2月25日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク