『花冷えて』
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ハードボイルドな堕胎医と交錯する女たちの生き様
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
〈闇医者おゑん秘録帖〉の第二弾で、今回は、表題作「花冷えて」と「竹が鳴く」の二中篇が収録されている。
この連作の魅力は、何といっても、凄惨な生い立ちと過去を抱えながら、堕胎医であるにもかかわらず、生の重さを骨の髄まで知っている逆説の女医おゑんの存在であろう。
表題作は、若い娘が次々に怪死を遂げる娘コロリが流行。これが人為的なものであるとにらんだおゑんが下手人を追いつめるミステリー仕立ての作品。もともとこの連作には、おゑんが、自分と関わり合った女たちを立ち直らせるために、敢えて彼女らを突き放す、ハードボイルドタッチのところがある。
特にラスト約五十ページにも及ばんとする下手人との対決は迫力満点。事件の真相はミステリーファンなら察しがつくだろうが、「花冷えて」という題名が下手人のコンプレックスと結びついていたり、そこにおゑんと下手人との死生観のぶつかり合いがあったりと、人間ドラマが堅固に構築されているので、そんなことはまったく気にならない。
「竹が鳴く」の方は、ある大店(おおだな)の女将が夫の子を孕んだ女中の子堕ろしを頼みに来るのが発端である。
帯の惹句に「稀代の毒婦か、無垢な童女か」とあるが、これが一筋縄ではいかない女将のことを指しているのかと思うと、なかなかどうして、女中の方も一見、弱そうでいて、女としての強さに目ざめていないだけだった。
ラストは、急転直下、とんでもない事件が起こるが、女将と女中の男に対する見方は一つの相似形となっていることが分かる。
この作品のテーマはおゑんのいう次の一言に尽きるといっていいだろう。
「子どもは女のものです。父親が誰であろうとね」
違う立場でやって来て、おゑんの家で交錯し、再び別々の立場で旅立っていく二人の女の姿が面白い。
力作といえよう。