激情シンガーvs気鋭の詩人 現代少女版『成りあがり』

レビュー

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かけがえのないマグマ : 大森靖子激白

『かけがえのないマグマ : 大森靖子激白』

著者
最果 タヒ [著]/大森 靖子 [著]
出版社
毎日新聞出版
ISBN
9784620323510
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

激情シンガーvs気鋭の詩人 現代少女版『成りあがり』

[レビュアー] 吉田豪(書評家)

 ボクは大森靖子(せいこ)を何度かインタビューしたりイベントをやったりしたが、そのせいで以前「大森靖子は吉田豪に枕営業をしている」と2ちゃんに書かれたことがあるらしい。

 それを彼女は当時週刊誌のコラムでネタにしていたから、ライブで会ったときお互い変に意識して会話も弾まず、「ああいう噂があると何もなくてもぎこちなくなりますね」とツイッターのDMでやり取りをしたら、そのスクリーンショットを週刊誌の連載で晒される事件があった。

 こういうことを「だって面白いと思ったから!」と笑顔でやってのけるのが大森靖子という人間である。

 以前やったインタビューで、小学6年生のときレイプされた体験をあっさり語り、しかもそれが原稿チェックで削られずそのまま残されていたことにも驚いたんだが、この本でも驚くぐらい淡々と告白している。

「あ、そういえば私、小6のときレイプされて。私のお父さんは税務署に勤めている公務員で、しかも小学生の時がちょうど中間管理職のキツい時期だったみたい。ストレスのせいか、家でずっと暴れていて、『出ていけ』ってめちゃくちゃ言われるから、はい、出ていきますって小6にもなるとよく家出をした。電車にも一人で乗れるし、夜だってそんなに怖くないとか思っちゃって。それで深夜に一人で歩いていたら車の中に連れ込まれてやられちゃった」

 彼女は、こういう告白に興奮するような男たちにではなく、同じような心の傷を抱えている少女に向けて語り掛ける。3年前、大森靖子がTIFという日本最大級のアイドルイベントに出演した後、「この先、良くも悪くも大森さんの影響を受けたアイドルが増えると思いますよ」と本人に伝えたこともあるが、これは現代の少女版『成りあがり』と言っていい本なんだと思う。矢沢永吉に憧れて人生が変わった男が続出したように、これを読んで人生が変わる女の子が増えていくのが楽しみであり、ちょっぴり怖い。

新潮社 週刊新潮
2016年3月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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