【教養人のための『未読の名作』一読ガイド】若草物語 [著]オールコット[訳]松本恵子

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若草物語 上巻

『若草物語 上巻』

著者
Alcott, Louisa May [著]/松本 恵子 [訳]/オールコット ルイザ・メイ [著]/オールコット [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784102029039
価格
637円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【教養人のための『未読の名作』一読ガイド】若草物語 [著]オールコット[訳]松本恵子

[レビュアー] 川本三郎(評論家)

 年輩の読者にはこの物語はまず映画の印象が強いのではないか。

 戦後、昭和二十四年に公開されたマーヴィン・ルロイ監督作品。四人姉妹をジャネット・リー、ジューン・アリソン、エリザベス・テイラー、マーガレット・オブライエンが演じ、大評判になった。

 話は原作と少し違っているが、四人姉妹の西洋人形のような可愛いさに、戦後の混乱期にあった日本人は溜め息をついた。リズ・テイラーが鼻を高くしようと寝る前に洗濯挟みで鼻を挟んだのはいまでも語り草になっている。

 十九世紀なかば、ボストン郊外のコンコードの町に住む清教徒一家の四人の少女が主人公。十六歳から十二歳まで。四人は言わば乙女ざかり。

 それぞれ個性豊か。妹想いの長女メグを始め、小説家志望でお転婆のジョー、ピアノを弾くのが好きで内気なベス、絵がうまく少しわがままなエミイ(映画では演じる女優の年齢の関係でベスとエミイの性格が入れ替った)。

 時代設定は一八六一年。南北戦争が始まった年。牧師である父親は北軍と共に戦場にいる。四姉妹は銃後の家族になる。そのために苦労もあるが、他方でピクニックや舞踏会を楽しむ余裕がある。無論、ういういしい恋も。

 作者オールコット(一八三二―八八)の自伝的作品。作家を夢見る次女のジョーが作者自身になる。

 コンコードはソーローの『森の生活』の舞台にもなった緑豊かな、まさに泰西名画のように美しい町。

 父親が清貧の牧師ということもあって家は決して豊かではない。メグは家庭教師をするし、ジョーは金持の伯母の世話係で働く。自立精神があるのは立派。

 新潮文庫版は昭和二十六年の刊。訳者の松本恵子(一八九一―一九七六)は戦前から活躍。アガサ・クリスティを日本に紹介した。自らもミステリを書いた。女性ミステリ作家の草分け。

 四姉妹の訳文の言葉は「いいこと?」「そばにいてあげてよ」と懐しい「テヨダワ」言葉。古臭いどころか、この十九世紀の少女たちによく合っている。

新潮社 週刊新潮
2016年3月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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