『レプリカたちの夜』 一條次郎著

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レプリカたちの夜

『レプリカたちの夜』

著者
一條 次郎 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103398714
発売日
2016/01/22
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『レプリカたちの夜』 一條次郎著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

奇妙な世界 切実な問い

 この小説をいったいどのように形容すればいいのだろう。とにもかくにもハチャメチャな物語なのである。

 多くの動物が絶滅した近未来と思(おぼ)しき世界。動物のレプリカ製造工場の品質管理部で働く主人公は、ある夜、いるはずのない動くシロクマを目撃する。それは本物なのか、工場の製品に何らかの理由で人が入っているのか。彼はどこかよそよそしい工場長から、その正体を探るよう指示され――。

 ただ、こうしてあらすじを書いたとしても、この物語のハチャメチャぶりを説明したことにはならないだろう。

 やたらと哲学的な問答をしかけてくるミステリアスな女性社員、享楽的な生き方を貫く同僚の男。謎の殺人事件が起これば、いずれシロクマが思わぬ形で再登場し、夜を呼ぶ巫女(みこ)まで現れて街が闇に包まれる。もとから奇妙だった世界はより大きな奇妙さにのみ込まれ、夢と現実の境界が繰り返しかき混ぜられるのだ。

 異様な展開に何度も不意打ちに遭い、頭がくらくらするが、それでも食らいつくように読んでしまう。「書く」という衝動と「読む」という欲求のぶつかり合い、と言えばいいだろうか。破綻しそうでありながら、ぎりぎりのところで世界の秩序を繋(つな)ぎ留める著者の力量、ポップな文体とユーモアも魅力的だった。

 そして気づくのは、いくつもの「謎」が解かれるべきものではなく、この不条理な世界を読者に受け入れさせるための背景として、丹念に塗り固められていることだ。

 著者は物語の後半、そのように作り上げた世界を文字通り溶解させつつ、切実なテーマを投げかける。そもそも「レプリカ」とは何か。なぜ工場ではそれが作られているのか。そこには、自分を自分たらしめているものとは何かを考える上で、大切なことが描かれているように思う。言葉の力を感じさせる刺激的な小説だ。

 ◇いちじょう・じろう=1974年生まれ。小説家。2015年、本作で第2回新潮ミステリー大賞を受賞。

 新潮社 1400円

読売新聞
2016年2月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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