『タネをまく縄文人』 小畑弘己著

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タネをまく縄文人

『タネをまく縄文人』

著者
小畑 弘己 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784642058162
発売日
2015/12/18
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『タネをまく縄文人』 小畑弘己著

[レビュアー] 清水克行(日本史学者・明治大教授)

土器の痕跡から謎解く

 入試シーズンということで、今日は試験風に。

 【第1問】縄文土器の外側に豆粒大のものが押し付けられたような謎の痕跡が見つかった。ここから、どのような事実が導き出せるか?

 土器に残された微細な圧迫痕から、シリコーンなどを使って型どりしたり、X線やCT機器を使って3Dデータを抽出したりして、当時の生活環境を復元する考古学の研究手法を「圧痕(あつこん)法」という。本書はその第一人者によって書かれた「圧痕法」の最新入門書だ。

 著者はありったけの穀物を買い集め、その圧痕がダイズであったことをつきとめる。が、しかしダイズにしては少々大きい……。そこで今度は粘土の水分で煮豆のように膨張した可能性を追求するため、ダイズ類の水分膨張率を調べる。そんなこんなの試行錯誤のすえ、ついに著者はそれが縄文人によって栽培されたダイズであったことを発見する。人間に栽培されるようになった植物は、自然環境にある野生種よりもタネが太く大きくなる傾向があるのだという。

 「弥生は農耕社会」「縄文は狩猟採集社会」。これが長らく日本史の常識だった。しかし、こうした瑣末(さまつ)な痕跡も見逃さない考古学者の情熱によって、いまその常識が揺らぎ始めている。

 では、続けて【第2問】。今度は縄文土器の外側にコクゾウムシが押し付けられた圧痕が見つかった。これは何を意味するか?

 米を食べるのがコクゾウムシ。ならば、縄文時代にイネがあったのか!と考えるのは素人の勇み足。ドングリを食べるコクゾウムシは米粒を食べるコクゾウムシよりも大きくなるのだそうで、大きさから考えて、これらの事実から稲作の存在を実証するのは不可能なのだという。

 「圧痕」の魅力に惹(ひ)かれ、さまざまな可能性を模索する著者の姿は、本当に楽しげだ。

 では、最後に【第3問】。コクゾウムシたちは、なぜ土器のなかに埋まってしまったのか? 衝撃の答えは、ぜひとも本書で!

 ◇おばた・ひろき=1959年、長崎県生まれ。熊本大教授。著書に『東北アジア古民族植物学と縄文農耕』。

 吉川弘文館 1700円

読売新聞
2016年2月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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