『プラグマティズム入門』 伊藤邦武著

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プラグマティズム入門

『プラグマティズム入門』

著者
伊藤 邦武 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784480068705
発売日
2016/01/06
価格
950円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『プラグマティズム入門』 伊藤邦武著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

伝統哲学打ち破る思考

 私たちの哲学はどこにいて、これからどこに向かっているのか。現在もっとも有効な方向を示すのはプラグマティズムだという。著者はその思考法を、歴史をたどりながら手際良く丁寧に紹介し、示唆的な見取り図を提供する。

 「プラグマティズム」とは「活動」(プラグマ)からの造語で、思弁よりも活用、実践を基盤とする思考法である。その特徴は、民主主義、教育や行動スタイルといった実践場面に深く結びついている点にあるが、他方、真理の探求をめぐる論理学や数学の哲学も動かしている現状を、著者は強調する。

 プラグマティズムの哲学と聞くと、多くの方は一昔前のアメリカの哲学で、英仏独の本格的な哲学と比べて二流の思想だという印象をもっているのではないか。そういった批判や嘲笑は過去のものとなった。19世紀末にアメリカで生まれたこの哲学潮流は、その後20世紀後半と21世紀に2度の復活をとげ、その都度パワーアップして現代もっとも有望な立場となっている。

 これは、さまざまな思想学派の一つというより、哲学全体を包括する運動であろう。パース、ジェイムズ、デューイという創始者にその都度立ち戻りながらも、カント、ヘーゲルからプラトン、アリストテレスまで西洋哲学の伝統を適宜取り入れる。伝統的な哲学に揺さぶりをかけつつ、重要な思想を活用する総合性と開放性がその特徴である。

 今世紀に第3の盛期を迎えているプラグマティズムの哲学では、多くの女性哲学者が主導的な役割を果たしている。また、近代日本はこの哲学と深い関わりをもち、本書が取り上げるデューイの著作は東京大学での講演録であった。西洋中心、男性中心の伝統哲学を打ち破る開かれた思考がここにある。そこでは、対話問答をつうじた探求という哲学の本来の姿が実現している。硬質で良質な現代哲学の入門書に、ぜひチャレンジしてもらいたい。

 ◇いとう・くにたけ=1949年、神奈川県生まれ。龍谷大教授。著書に『経済学の哲学』など。

 ちくま新書 880円

読売新聞
2016年2月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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