文系学部解体 [著]室井尚
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
昨年、文部科学省は、全国の国立大にかなり強引な通達をした。それは、「社会からの要請」に応える人材を育てるための組織改革を求めるものであり、産業との連携や国際競争力を高めることに直結する学部・学科だけを優遇するとほのめかす内容だ。実際に、文科省の方針で設置されてきた新課程がいきなり廃止されるような、急激な方向転換が始まっている。
この「騒動」の渦中から一部始終を見ている大学教授が、文科省の無理押しを真正面から批判した。日本の大学教育が「生き死にの瀬戸際」まで来たという危機感がにじみ出ている。
テレビや新聞がこの問題を扱うとき、往々にして、安倍政権の横暴にもの申す大学教授といった「対立の構図」に問題を矮小化してしまう。しかし、もっと本格的な問題提起が、書籍にはできる。それは、歴史的経緯と現状を整理しつつ、複眼的にことを解きほぐすやり方だ。手間がかかるが、本質をつかむにはこれしかない。著者は自身の「怒り」を記述してはいるが、この問題を感情的対立のレベルでとらえたりしない。「大学の役割は『無知』や『無思考』との戦い」という立場から、学生の成長の「順路」を一つに決めてしまうような方針に危機感をもっている。
大学の文系学部が「資格取得の予備校」へと堕してしまったら、日本人はどこで「教養」を身につければいいのだろうか。