『ムハンマド―世界を変えた預言者の生涯』 カレン・アームストロング著

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ムハンマド──世界を変えた預言者の生涯

『ムハンマド──世界を変えた預言者の生涯』

著者
カレン・アームストロング [著]/徳永里砂 [訳]
出版社
国書刊行会
ジャンル
歴史・地理/伝記
ISBN
9784336059390
発売日
2016/01/22
価格
2,916円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ムハンマド―世界を変えた預言者の生涯』 カレン・アームストロング著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

生身描く出色の伝記

 1年に約3万3000人もの人がテロの犠牲となっているが(2014年)、犠牲者の約80%は、イラク、ナイジェリア、アフガニスタン、パキスタン、シリアの人々である。いずれもイスラームの影響が強い国で、テロ組織である「イスラム国」の指導者は、イスラーム帝国のリーダーであった「カリフ」を名乗っている。イスラームに世界の耳目が集まっているが、何事であれ物事の本質を理解するためには、その始源の姿を学ぶことが大切だ。本書はイスラームの創始者ムハンマドの出色の伝記である。

 第1章マッカでは、愛妻ハディージャと穏やかに暮らしていたムハンマドに神の啓示が下りるまでが描かれる。第2章ジャーヒリーヤ(無明時代、イスラーム以前の社会)では、この言葉の第一義が「怒りっぽい気質」、傲慢さや慢性的に暴力と報復を行う傾向であることが示される。クルアーンはこれに対してヒルム(堪忍)をもって行動するように促した。しかし、ムハンマドや信徒に対する迫害は続く。第3章ヒジュラ。ついにムハンマドは北方のヤスリブ(マディーナ)へのヒジュラ(移住)を決意する。第4章ジハード。マディーナとマッカの戦いが始まる。ムハンマドは「我々は小ジハード(戦闘)から戻り、大ジハードに向かうのだ」と述べたが、ジハードは本来、社会と心を改革するための奮闘を指す言葉である。また、一夫多妻制は、寡婦や孤児を救う社会立法の一部であった。第5章サラーム(平安)。マッカとの争いは止(や)まずマディーナでも反対者の策謀が止まない。ムハンマドは素手でマッカへのハッジ(巡礼)を敢行する。ハッジは成功してムハンマドの声望は高まり、最終的にマッカは降伏する。

 本書の魅力は、決して完全な人間ではないムハンマドの生身の生涯を描いている点にある。ムハンマドは、イスラームという剣に基づくことのない、平和と調和を尊重する宗教と文化伝統を創始したのである。徳永里砂訳。

 ◇Karen Armstrong=1944年生まれ。英国の宗教学者、ジャーナリスト。著書に『神の歴史』など。

 国書刊行会 2700円

読売新聞
2016年2月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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