小学校中退、「セーラー服歌人」の初歌集

レビュー

6
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キリンの子 鳥居歌集

『キリンの子 鳥居歌集』

著者
鳥居 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学詩歌
ISBN
9784048656337
発売日
2016/02/08
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

小学校中退、「セーラー服歌人」の初歌集

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

 この若き歌人のことは、彼女の半生をたどった新聞の連載で知り、驚いた。その鳥居の初歌集。タイトルは「目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ」という歌からとられている。キリンの首の長さ、睫毛の長い瞳がまず思い浮かび、その毛の色が月の光と結びつく意外性に満ちたイメージが、「かあさん」という言葉によって一気に親密さのほうに引き寄せられる。言葉のなかに運動があり、それが瑞々しい生命感を放っている。

 先の新聞連載に加筆したものが『セーラー服の歌人 鳥居』(岩岡千景著)という本にまとまっており、これも読んでみた。幼いときに両親が離婚、鬱病の母が睡眠薬で自死し、その命が消えていくのを傍らで見守るという経験をする。祖母が親代わりを務められずに児童養護施設に送られ、そこでの虐待に耐えかねて路上生活をする。学歴は小学校中退。拾った新聞で字を覚え、短歌に生き抜くための場所を見いだしていく。

 鳥居はいまも複雑性PTSDの病を抱えており、生きていく不安におびやかされることがある。「私ではない女の子がふいに来て同じ体の中に居座る」という歌は、その症状と関係づけて理解されがちだが、私はむしろこの歌に救いのようなものを感じとった。生い立ち、性格、能力……。人はそこに自分の本質があるかのように固執しがちだが、「私ではない女の子」がふいにやって来るのを迎える気持ちになるほうが、道が開けることがあるのではないか。自分のなかに他者を招き入れること。その可能性を暗示しているかのようで感銘を受けたのだった。

 辛い記憶を歌ったものも少なくないが、このように生命力の発露を直感的にとらえた歌もあって力強い。どれもが「死ぬしかないと思った時に、人を救うのが、芸術だ」(前掲書より)という言葉を、本気で吐くことのできる人の歌なのだ。

新潮社 週刊新潮
2016年3月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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