粘膜!粘膜! 異形の小説の舞台裏

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書籍情報:版元ドットコム

粘膜!粘膜! 異形の小説の舞台裏

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 巨漢の小学生や河童といった異形のキャラクター、グロテスクなのにどこかユーモアもある人体破壊シーンの数々、そして「グッチャネ」といった妖しい造語。第十五回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した『粘膜人間』(角川ホラー文庫)が発売されるや否や、その猥雑で滑稽な世界観が多くの小説好きたちを魅了したのを今でも覚えている。あの頃、皆お天気の話でもするかのように「粘膜! 粘膜!」と叫んでいたっけ。

 その『粘膜人間』の作者、飴村行が初のエッセイ集を刊行した。その名も『粘膜黙示録』。これを読めば「粘膜作家」誕生までの道のりがわかるぞ。

 一九九四年、当時私立の歯科大学の学生であった飴村青年は、プロのMANGA家(英字表記なのは本人曰く「世界的名声を獲得するという大前提があったため」)を目指すために突然大学を中退。勇んで創作活動に乗り出したものの結果は惨敗、生活費を稼ぐため過酷な工場作業の仕事に就くようになる。本書は中退から派遣工時代の十年間を中心に、どん底生活のなかで出くわしたエピソードを綴っている。

 通り魔にやられるように殴られた知人を見捨てて逃げた「ローソンの要塞」事件、突如として預金残高がゼロになった「師走の終りとハードボイルド・マーダーランド」事件などなど、自分だったらこんな目には遭いたくないよ、と思いながらもついつい笑ってしまう話ばかりだ。「クシャおじさん」に似た老け顔インテリ工員をはじめ、派遣工時代に出会った面々も強烈。こんな人物たちとの出会いが粘膜ワールドを創造する原動力になったのかも。

 さて、人体が大変な目に遭う小説を書く作家といえば平山夢明。その平山のエッセイ集『非道徳教養講座』(光文社文庫)も『粘膜黙示録』のように黒いエピソードだらけか、と思いきや、「賢い男の捨て方」「賢い親の裏切り方」など、こちらは割と真っ当な人生相談エッセイになっている。でも知り合いに尿をペットボトルで溜める人がいたとか、やっぱり平山も変だ!

新潮社 週刊新潮
2016年3月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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