『ドローンランド』 トム・ヒレンブラント著

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ドローンランド

『ドローンランド』

著者
トム・ヒレンブラント [著]/赤坂 桃子 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784309206950
発売日
2016/01/27
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ドローンランド』 トム・ヒレンブラント著

[レビュアー] 牧原出(政治学者・東京大教授)

怖々のぞく未来社会

 テロリストを標的とする無人飛行機でもあり、手軽にとばして楽しむこともできるドローン。

 おぞましくもあればわくわくもするが、ふと思う。ドローンは未来社会をどう変えていくのだろうか。そんな疑問にこれでもかとばかりに答えてくれるのが、SF小説である本書だ。

 舞台はEU本部のあるブリュッセル。イタリア出身のEU議会議員が銃で殺害されたとの通報が入る。大型ヘリから昆虫並の大きさの多数のドローンが、現場のデータを収集する。ハードボイルド風に登場したEU警察の警部は、早速ドローンの集めたデータをもとに「ミラーリング」を開始し、殺害時刻の現場を3次元で体感する。気温、湿度、さらに音や匂いとともに。

 政治的背景はディストピアのような未来図だ。イギリスのEU離脱で議会は憲法改正案の審議中。警部の出身国オランダは地球温暖化による海水面上昇で水没。中東産油国は紛争のため原油を輸出できず、ヨーロッパは太陽光発電で電力をまかなう。あるいはそうなるかもしれないとどこかで思ってしまう。そしてサハラ砂漠の太陽光パネルをめぐる対テロ戦争に従軍した警部は、咄嗟(とっさ)の判断で戦術ソフトウェアを使いこなし、スナイパーの銃弾をかわす。

 ドローンの集めた情報はデータセンターに蓄積される。捜査コンピューターがターゲットの情報を分析し、求めに応じて、その行動範囲を割り出し、確率を予測する。だが予測精度はデータの収集・分析能力によって決まる。ミラーリングの際に現れる謎の人物。警察以外にもデータセンターが? 息を呑(の)んで読み進める。登場人物は、現代人がスマホをなぞるように、デジタルデータを感覚で受け取る。ドローンだからこそ集めるデータは完全ではなく、感覚を頼りに想像をめぐらせる。意のままにならない先端技術を駆使したデータ戦が、国際政治の修羅場となる。こわごわ未来をのぞいてみたい。そんな気持ちを否応(いやおう)なしに高める本だ。赤坂桃子訳。

 ◇Tom Hillenbrand=1972年、ドイツ・ハンブルク生まれ。本書でドイツ推理作家協会賞などを受賞。

 河出書房新社 2800円

読売新聞
2016年3月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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