生物多様性の極致を交尾器から覗き見る

レビュー

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ダーウィンの覗き穴

『ダーウィンの覗き穴』

著者
メノ・スヒルトハウゼン [著]/田沢 恭子 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784152095961
発売日
2016/01/22
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

生物多様性の極致を交尾器から覗き見る

[レビュアー] 鈴木裕也(ライター)

 生物学や進化学を多少かじったことがある人が読んでも、本書は驚きの連続なのではないか。著者自身が本文中でも繰り返し「心して読んでほしい」と警告するほど、さまざまな生物のおぞましいほどに個性的な交尾器(あまりにもユニークで「性器」、「生殖器」とは呼びにくいものもある)と、それを用いた破天荒な交尾(これも定義が難しいほど)が紹介されている。

 例えば、体長の八倍の長さのペニスを持つフジツボや、音叉のように二股に分かれたペニスを持つキングコブラ、挙げ句にはペニスにバイブレーターを備えたガガンボ……。多くの図版とともに紹介されるこれらの事例が語るのは、生殖に直接かかわる器官ほど進化によって多様化したパーツはほかにはないという事実なのだ。

 何より驚いたのは、生物界ではヒトのペニスのように滑らかな形は少数派で、多くの種ではペニスにトゲがあるという事実を知ったことだった。驚くなかれ、それは霊長類においても同様で、チンパンジーの股間にもトゲが生えている。進化生物学の世界では、むしろヒトがペニスのトゲを失ったことのほうが謎とされる。トゲがあるのだから当然、雌の交尾器はそのたびに傷つけられてしまう。それでも、彼らの交尾器が現在の形に進化したのにはちゃんと理由がある。

 ダーウィンを悩ませた性淘汰、つまり雄と雌の生殖をめぐる長い長いせめぎ合いこそがその答えなのだが、本書ではそれが丁寧にユーモアたっぷりに説明される。著者の言いたいことは、生殖器のこうした「進化」こそが新しい種を誕生させる原動力になるかもしれないという可能性だ。なのに、世間やメディアはなぜ交尾器研究者を軽んじるのかと著者は最後に抗議する。同感だ。どうして私の周囲の人々は、私がこの手の本を一生懸命読んでいるとさげすんだような目をするのか! 私も著者に便乗して抗議させてもらいたい。

新潮社 新潮45
2016年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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