『希望の海 仙河海叙景』
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『希望の海 仙河海叙景』熊谷達也著
[レビュアー] 産経新聞社
震災後、東北の港町を舞台にした仙河海(せんがうみ)シリーズを書き続けている直木賞作家の最新作。病弱な母を支えながらスナックを切り盛りする希(のぞみ)、会社から希望退職を打診されて悩む悟志、認知症の夫がグループホームに入所したあとひとり暮らしを選んだ清子…。さまざまな人々のさりげない日々が描かれるが、彼らの町(気仙沼市がモデル)に訪れる「あの日」を読み手は意識してしまう。不可視のカウントダウンが「生きている」ことのかけがえのなさを、静かに、確かに伝えてくる。震災前の7編と震災後の2編が共鳴しあう終盤が圧巻。文芸の底力を感じる。(集英社・1800円+税)