『やがて海へと届く』 彩瀬まる著

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やがて海へと届く

『やがて海へと届く』

著者
彩瀬 まる [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062199254
発売日
2016/02/03
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『やがて海へと届く』 彩瀬まる著

[レビュアー] 青山七恵(作家)

震災の喪失と向き合う

 東日本大震災から五年の月日が経(た)つ。しかし現在も故郷を奪われたまま避難生活を余儀なくされる被災者は十七万人以上、依然として居場所の知れない行方不明者は二千五百人以上を数えるという。

 本書の主人公湖谷真奈の親友すみれも、東北地方を一人旅中に震災に巻き込まれそのまま行方不明となった。やがて家族によって死亡手続きがとられたものの、真奈は未(いま)だにその理不尽な運命を受け止めきれず苦しみ続けている。一方すみれの恋人の遠野くんは、彼女と暮らしていた部屋を去り荷物を処分することを決める。

 見知らぬ土地で一人きり、きっとひどく苦しんだに違いないすみれをその瞬間に置き去りにすることができず、「悼んで、悲しんで、ずっと覚えていて、当たり前でしょう」と反発する真奈に対して、「それはすみれが一人で背負う、どうしようもないもんだろ」と返す遠野くん。一人は悲劇の起きた瞬間にいつまでも寄り添おうとし、一人は前に進もうとする。同じ喪失を抱えながら異なる死生観を持つ二人は当然ぶつかりあうが、その痛切な語らいのなかで生まれた死者の像が、実は彼らの物語と同時並行で進むもう一つの物語へとつながっていくのだ。

 響きあい、ゆっくりと歩みを進める二つの物語はやがてそれぞれのラストシーンにたどり着き、同じ未来へ向かう生者と死者は等しく、そっと祝福される。そこには登場人物たちと共に死を想(おも)い、悩みながらページを繰ってきた読者をその気持ちごとすっぽり抱きとめるような、おおらかで美しい光景が広がっている。

 大切な人がある日突然いなくなったら? 残された者はその悲しみとどう向きあっていけばいいのか、癒しがたい喪失はいつか埋められるものなのか、「忘れない」という行為が意味するものはなんなのか。容易には答えの出ない大きなテーマにまっすぐ向きあった著者の、切実な覚悟と祈りが一文一文に宿っている。

 ◇あやせ・まる=1986年生まれ。作家。作品に東日本大震災を巡るノンフィクション『暗い夜、星を数えて』など。

 講談社 1500円

読売新聞
2016年3月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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