『仏像再興 仏像修復をめぐる日々』 牧野隆夫著

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仏像再興 : 仏像修復をめぐる日々

『仏像再興 : 仏像修復をめぐる日々』

著者
牧野 隆夫 [著]
出版社
山と溪谷社
ISBN
9784635330671
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『仏像再興 仏像修復をめぐる日々』 牧野隆夫著

[レビュアー] 清水克行(日本史学者・明治大教授)

受難の文化財を救う

 いま、時ならぬ「仏像ブーム」なのだそうだ。全国の決して有名とはいえない仏像にも老若男女が詰めかけ、あちこち盛況なのだという。著者は、仏像の調査・修復の専門家。この本も、そうしたブームに沿って、仏像修復の裏話やノウハウを語った随筆かと思って読むと、その予断は大きく裏切られる。

 仏像修復の現場は、さながら激戦地の野戦病院のよう。大事に祀(まつ)られているご本尊の一方で、お堂の隅には、もはや主のわからない仏像の手足が乱雑に飛び散る。朽ちた部材の一部は焚(た)き火の材料とされた形跡もある。これらをどう組み合わせて、もとの姿に戻せというのか……。そんな修羅場で、著者たちは救急救命医のように身を粉にして仏像たちを修復する。

 現在、全国の仏像の数に比して、修復技術者の数が圧倒的に足りない。味方であるはずのお寺の住職や研究者のなかにも、無理解な人が少なくない。また、それに付け込んで怪しげな仏像「修復」業者たちも暗躍する。過去には明治の廃仏毀釈(きしゃく)、そして平成の大震災が、仏像たちの受難にさらに拍車をかける。

 本書には、そうした現実に直面した著者が仏像修復を生涯の仕事と志すまでの若き日の経緯と、いま抱えている課題が率直に語られている。そのなかで、信仰と文化財保存の谷間で「修復」とはいかにあるべきか、修復の「報酬」はどうあるべきか、といった問題も語られてゆく。

 悲しいかな、政府が「文化芸術の発信」を謳(うた)いながらも、そうして失われてゆくものを個人の力で辛うじて食い止めているのが、この国の現状なのだ。それでも、著者の修復作業が若い学生たちとともに行われ、著者のもとから明日の修復師たちが育っていっているのが、大いなる救いだ。本書には著者に修復された御仏(みほとけ)の美しい姿の数々が鮮明な写真で並ぶ。いつの日か、著者たちの尊い労苦を思いながら、その実物を拝してみたいと思った。

 ◇まきの・たかお=1950年、岡山県生まれ。吉備文化財修復所代表。約300体の仏像修復を手がける。

 山と渓谷社 1800円

読売新聞
2016年3月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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