『イスラーム神学』 松山洋平著

レビュー

3
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イスラーム神学

『イスラーム神学』

著者
松山洋平 [著]
出版社
作品社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/宗教
ISBN
9784861825705
発売日
2016/01/27
価格
2,916円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『イスラーム神学』 松山洋平著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

世界観がより身近に

 「イスラーム」という語を、中東情勢やヨーロッパ危機や文化対立の文脈で目にしない日は少ない。だが、私たちはこの宗教を、きちんと分かっているのか。ニュースの解説に物足りなさを感じて聖典『クルアーン(コーラン)』を開いても、そこに展開される宗教や思想をそのまま理解することは難しい。イスラームでは、正しい教えの理解をめぐって長い神学の論争が重ねられてきたからである。

 「イスラーム神学」と題する本書は、正統とされるスンナ派の考え方を整理し、その典拠の一つとなる12世紀の神学者ナサフィーの『信条』という綱要を紹介する形で、宗教としてのイスラームを論点ごとに説明していく。神アッラー、世界、人間、預言者、信仰、終末、そういったテーマを見渡す格好の入門書になっている。表層ではなく、「神を信じる」という核心からイスラームが見えてくる。

 スンナ派といっても、マートゥリーディー派、アシュアリー派、「ハディースの徒」という三つの主要学派があり、それらの間の考え方の違いも含めて、異端との相違も明瞭に説明される。日本ではこれまで、井筒俊彦がアシュアリー派を中心に解説した『イスラーム思想史』(1975年)があったが、本書によってイスラームへの理解は格段に深まるだろう。

 「アッラーに手はあるのか?」といった意表をつく問いから、「アッラーは悪を意志するのか」「アッラーの言葉は文字と音声か」といった難問まで、神学の論争はキリスト教神学や仏教の教義論争とも多くが共通する。ムーサー(モーセ)やイーサー(イエス)も重要な預言者として登場する。ちなみに、「ジハード」という語はこの神学論争には登場しない。

 通読でなくても、興味ある項目だけ味わうのでよい。馴染(なじ)みのない用語や人名にとまどう読者には、巻末に用語集と索引が整備されており、よい手引きとなる。イスラームという重要な宗教、その世界観や人生観がより身近なものになるはずだ。

 ◇まつやま・ようへい=1984年、静岡市生まれ。東京大学東洋文化研究所・日本学術振興会特別研究員PD。

 作品社 2700円

読売新聞
2016年3月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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