『21世紀 地政学入門』 船橋洋一著

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21世紀 地政学入門

『21世紀 地政学入門』

著者
船橋 洋一 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166610648
発売日
2016/02/19
価格
864円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『21世紀 地政学入門』 船橋洋一著

[レビュアー] 村田晃嗣(国際政治学者・同志社大教授)

地理と歴史の復活

 マッキンダーやマハンに見られるように、地政学は20世紀初頭に大きな影響力を誇った。だが、米ソ冷戦の時代には、イデオロギー対立が多分に地政学を覆った。その冷戦が終焉(しゅうえん)して四半世紀である。最近は未来予測と組み合わせ、再び地政学がしばしば語られるようになった。国際政治における「地理と歴史の復活」であり、「地政学の逆襲」である。ただし残念なことに、欧米の論者が地政学を論じる時、国力の下降する日本は脇役にすぎず、ほとんど顧みられない。

 しかし、我々が知りたいのは日本を取り巻く地政学、日本にとっての地政学である。中国、ロシア、北朝鮮の動向など、北東アジアは中東と並んで最も地政学的考察を要する地域に他ならない。本書は、当代随一のジャーナリストによる、月刊誌への連載記事をまとめたものである。「日本ほど、地政学的にレバレッジ(てこの作用)が効きやすい位置にいる国も少ない」、「それだけに、よほど確固とした戦略と思慮深い外交を持たない限り、日本は戦略的な『駒』として利用されることになりかねない」と、著者は言う。

 この種の連載のまとめはタイムリーだが、ややもするとまとまりを欠きがちになる。その点、本書は各章の冒頭に概略を付し、配列にも工夫をこらしている。第一章では21世紀地政学の全体像を提示し、第二章では経済を中心とした地経学を論じている。続いて第三章では中国、第四章ではアメリカという二つの超大国を俎上(そじょう)に載せ、第五章で日本の外政、第六章で日本の内政を吟味する。さらに、エネルギーはもとより、宗教や人口動態などをも射程に含んでいる。

 しかも、国際ジャーナリストにふさわしく、世界を駆け巡って取材した成果をふんだんに盛り込んでいる。そして、灰色の地政学、テロ=「敵は、恐怖心それ自体」、「弱い時に強い」中国の終焉? など、魅力的な見出しが並ぶ。読みやすい上に手応えがある。続編を望みたい。

 ◇ふなばし・よういち=1944年、北京生まれ。ジャーナリスト、日本再建イニシアティブ理事長。

 文春新書 800円

読売新聞
2016年3月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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