『指紋と近代』 高野麻子著

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指紋と近代

『指紋と近代』

著者
高野麻子 [著]
出版社
みすず書房
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784622079675
発売日
2016/02/20
価格
3,996円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『指紋と近代』 高野麻子著

[レビュアー] 安藤宏(国文学者・東京大教授)

 指紋登録制度を通して「近代」を問い直す試み。産業革命と交通の発達によって自由に移動する莫大(ばくだい)な労働力が生じ、これをいかに固定化し、管理していくかに近代国家の命運が託されていた。

 その意味でも指紋法が英国のインド統治で初めて実用化され、「満洲国」で先進的に実施されていたというのは象徴的だ。「国家」を作ってはみたものの、自由に移動する「国民」の実態がつかめない。管理しようとすればするほど不定型なありようが浮き彫りにされてしまう。そのプロセスは、本書の見所でもある。

 戦後日本の始発期の指紋管理のエキスパートは、実は「満洲国」の当事者たちなのだった。世を騒がせた外国人指紋押捺(おうなつ)制度もまた、植民地時代の「国民」管理の残影にほかならなかったのである。

 叙述はデジタル化時代の生体認証制度にまで及ぶ。「国民国家」の論理がすでに変質した現在、われわれの前にはあらたな「管理」が待ち受けている。グローバリゼーションが進む中で、テロ対策の名のもとに広がる「監視」は、今後どのような方向に進んでいくのだろうか。(みすず書房、3700円)

読売新聞
2016年3月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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