『美の考古学 古代人は何に魅せられてきたか』 松木武彦著

レビュー

4
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美の考古学

『美の考古学』

著者
松木 武彦 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784106037801
発売日
2016/01/29
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『美の考古学 古代人は何に魅せられてきたか』 松木武彦著

[レビュアー] 清水克行(日本史学者・明治大教授)

「かたち」に表れた歴史

 戦後の歴史学は、合理的思考の成熟や技術の発達など、人類の進歩の過程をかなりの程度まで精緻に明らかにしてきた。紆余(うよ)曲折あったとはいえ、ともかくも私たちの先祖は非合理的なものや無益なものを切り捨てて、ここまで歩んできたのである。これは、私たちの「常識」的な歴史理解となっていると言えるだろう。

 ところが、一方で人類が生み出した遺構や遺物のなかには、合理的思考や機能主義だけでは、どうしても説明できない部分が常に残る。そもそも縄文土器はなぜあんなにゴテゴテと飾り立てられているのか? なぜ前方後円墳はカギ穴のかたちをしているのか? そうした近代人の合理主義的な観点からは到底説明不可能な「あそび」や「こだわり」の造作を、著者は「美」と呼んで、その意味と、その壮大な変遷の過程を叙述している。少し大げさに言えば、本書は従来の歴史学が削(そ)ぎ落としてきたものの側に立って、もう一つの人類史を叙述しようという相当に野心的な試みである。

 そこでは、もちろんこれまでの学術用語は役に立たない。前人未到、未開の沃野(よくや)を切り拓(ひら)くため、著者はまったく新しい自前の論理を構築する。縄文土器における「偶数の美」と「奇数の美」の相克。弥生時代における厳格な正円と直線による「よい形」への志向。古墳の上に同じものをたくさん集めて並べる「量の美」など。いずれも著者の柔軟な感性と鋭い分析力をもってして、初めてすくい取ることができた事象であろう。その中から、「大陸や半島との交渉」や「社会階層の発生」といった、従来の歴史学でも重要視されてきた問題群が、また新しい角度から浮かび上がる。

 本書は「モノ」のもつ物理的役割ではなく、心理的役割に注目した画期的労作と言えるだろう。「文字」無き時代を、遺構や遺物の「かたち」から明らかにする考古学者の面目躍如たる仕事である。

 ◇まつぎ・たけひこ=1961年生まれ。国立歴史民俗博物館教授。考古学者。著書に『古墳とはなにか』など。

 新潮選書 1300円

読売新聞
2016年3月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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