『戦争と広告』 森正人著

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戦争と広告 第二次大戦、日本の戦争広告を読み解く

『戦争と広告 第二次大戦、日本の戦争広告を読み解く』

著者
森 正人 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784047035836
発売日
2016/02/23
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『戦争と広告』 森正人著

[レビュアー] 安藤宏(国文学者・東京大教授)

創られた「物語」を分析

 銃後の国民には「敵」の姿が見えない。これをいかに可視化していくかに戦中のメディアの成否がかけられていた。本書は「アサヒグラフ」「写真週報」などの写真雑誌、さらには博覧会、地図、漫画など多彩な媒体によって、第二次大戦下にいかなる「物語」が育まれていったのかを分析する試みである。博覧会場に並べられた戦利品を通して「弱い」中国と卑怯(ひきょう)な欧米列強、という先入観が植え付けられたり、偉大なる日本を演出するために世界地図が巧みに利用されたりするのもその一例だ。

 物語はできるだけ単純な方がよい。「事実」にはフィルターがかけられ、正義と不正義、抑圧する国とされる国、など、さまざまな視覚イメージが生み出されていく。たとえば「癒やす女」のイメージが慰問袋を作る少女たちの写真を通して創り上げられていくように……。

 興味深いのはこうした写真が図らずも暴き出してしまう亀裂だろう。「大東亜の救世主日本」のもと、占領地の市民の顔は明るい、というキャプションが付されながら、実際の写真では、彼等(ら)の表情は脅(おび)えている。礼賛される特攻隊員たちの顔は、無表情で何やら不気味でもある。物語の虚構性を逆説的に暴いてしまうこうした微細なギャップを本書は見逃さない。

 実はメディアの質が大きく変わった現代においても、視覚イメージの作られ方はほとんど変わっていない。八〇年代以降、戦争の記憶の再配置が進む中で、単純化の操作はより隠微な形で進んでいる。たとえば戦時の家族愛を強調した映画にあって、「敵」にも家族がいるという単純な事実は省略されてしまう。

 おそらく重要なのは自分たちがどのような作為に巻き込まれつつあるのかを絶えず自己分析していく発想なのだろう。現代において「自虐史観」を批判する側も擁護する側も、実は決定的に欠けているのがこの視点なのだと著者は主張する。

 ◇もり・まさと=1975年、香川県生まれ。三重大准教授。専門は文化地理学。著書に『四国遍路』『大衆音楽史』など。

 角川選書 1700円

読売新聞
2016年3月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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