『米朝置土産 一芸一談』
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四半世紀過ぎても色あせない 人間国宝は座談も名手
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
早いもので、米朝師が逝ってもう一年になる。上方落語を全国区に押し上げたのはまさにこの人の力だが、落語行脚とともに、マスコミに打って出たハシリの人でもあった。
多くのテレビやラジオに出演したが、還暦を過ぎた頃、朝日放送ラジオの対談番組「米朝のここだけの話」が始まる。一九八九年四月から翌年の十月までの一年半で五十四人が招かれ、十二人分を収録した第一弾が九一年に上梓されていて、本書は第二弾となる。
夢路いとし・喜味こいし、菊原初子、朝比奈隆、吉村雄輝、小松左京、島倉千代子、小沢昭一、橘右近、高田好胤、阪口純久(きく)、立川談志、茂山千之丞という十三人で、対談は枝雀師の前説から始まる。
四半世紀経っている。唯一人ご存命なのは上方料理「大和屋」の女将阪口純久氏のみ、ホストもゲストも全員があの世の人であることに、分かっていながらショックを受ける。
ではこの対談は単に古いのか。そんなことはない。かえって新鮮なのだ。当時のことが分かるし、芸論を始めとする論は普遍だし、ほとんどが物故者ゆえに、なぜもっとちゃんと話を聞いておかなかったのかとの後悔の念すら募るのだ。
小松左京氏相手の米朝師は楽しそうで、やりとりはまるで漫才だ。聴く者(読者)をしてニコニコさせ、それでいていつしか小松左京氏の拠って立つところが浮き彫りになる。
五十四歳の談志はがんがん突っ込んでゆく。芸論を吹っかけるのだ。米朝師は戸惑いつつも質問という相の手を入れ、その都度に談志の勢いが弱まり、やがて並び、気がつけば形勢逆転の図となる。
米朝師はソフトに構え、充分相手に撃ち込ませている。それでいて博覧強記という裏付けがあるから微動だにしない。まさに座談の名手である。酒を飲み、タバコを嗜み、八十九まで生きた米朝師。その巨(おお)きな業績の一端をあらためて知る一冊と言えよう。