『ネットロア ウェブ時代の「ハナシ」の伝承』 伊藤龍平著

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ネットロア

『ネットロア』

著者
伊藤 龍平 [著]
出版社
青弓社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784787233981
発売日
2016/02/20
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ネットロア ウェブ時代の「ハナシ」の伝承』 伊藤龍平著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

電脳社会介した説話

 タイトルの「ネットロア」には、「電承説話」という漢字をあてる。まず説話とは、私たちが日常で語ったり聞いたりするハナシのことだ。ちなみに従来の説話研究では、民間説話を、時代に無関係な「昔話」、歴史時代が舞台の「伝説」、同時代が舞台の「世間話」の三種類に分類しているのだそうだ。

 では「電承」とは? ネットの世界で語られ、流布して周知されてゆくという意味だ。電脳社会を介するから「電承」なのである。

 著者の伊藤氏は伝承文学の研究者、説話の専門家だ。その専門家にとっても、ネット上の説話は、従来の研究体系のなかでは論じにくいものなのだという。「それなりのリアリティーをもって受け止められている同時代の話」ではあるけれど、テキストと写真や動画によって「語られ」、地縁・血縁に基づく共同体からはまったく解き放たれて、伝統的な口承説話よりもはるかに速く、自在にやりとりされているからだ。

 本書ではそのネットロアのなかから、「くねくね」「八尺様」「南極のニンゲン」など、怪異譚(たん)や未確認生物の目撃譚としてよく知られた題材を取り上げて考察している。2008年から2015年までに発表した文章をまとめ、書き下ろしの一章を加えた構成なので、変化の早いネット社会の話題としては下火になっている題材も含まれているかもしれないが、それをおいても本書は電承説話の世界への格好の入門書だ。普段はネットで説話を知る習慣がなく、「くねくねって何?」という方にもお勧めしたい。私自身も「くねくね」のことはネットではなく、いわゆるJホラー映画の評論集を読んでいて知った。ネットロアは既にネット社会だけのものではなく、フィクションの世界にも影響を与えている。

 本書をワクワク楽しんだ方は、著者の『ツチノコの民俗学』もどうぞ。新旧の説話伝承のありようを読み比べることになり、いっそう興味がわいてくるはずだ。

 ◇いとう・りょうへい=1972年、北海道生まれ。台湾・南台科技大学教員。著書に『江戸の俳諧説話』など。

 青弓社 2000円

読売新聞
2016年3月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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