『異郷の友人』 上田岳弘著

レビュー

7
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異郷の友人

『異郷の友人』

著者
上田 岳弘 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103367338
発売日
2016/01/29
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『異郷の友人』 上田岳弘著

[レビュアー] 岡ノ谷一夫(生物心理学者・東京大教授)

 「生命とは物質が罹患(りかん)した病である」。26ページに現れるこの言葉を、読者はどう読むのか。生命の病は死によってのみ癒やされるという読み方は、自分自身を「多数派」に堕すことになる。ならば、物質の状態の一つとして生命と生命の不在を傍観すべきなのだろうか。

 自分の意識がこの肉体に宿っていること。これを必然として多くの小説は書かれてきた。この作品はしかし、まずこの必然を否定する。否定するというより、これが必然であることの必然を外す。すると意識は拡張し、自己が自己であることが恣意(しい)的なことになる。拡張した自己に流入する多くの他者たちの意識の、どこに寄り添うかのみが、自己の特異性を作る。

 そのような世界と、自己がこの肉体にタグづけされた世界との、どちらがあり得るのかに明白な答えが出なくなることが、本書の読書体験となろう。

 僕は「多数派」として、肉体と共に滅びる意識のほうを選んでしまいそうだ。時空を超える意識の大いなる孤独を感じたからだ。これは想像力の踏み絵である。

 新潮社 1400円

読売新聞
2016年3月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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