カナリア恋唄 杉本章子 著

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カナリア恋唄 お狂言師歌吉うきよ暦

『カナリア恋唄 お狂言師歌吉うきよ暦』

著者
杉本 章子 [著]/深井 国 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062199094
発売日
2016/02/23
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

カナリア恋唄 杉本章子 著

[レビュアー] 末國善己(文芸評論家)

◆逆境に揺れ動く女心

 杉本章子の遺作『カナリア恋唄』は、代表作<お狂言師歌吉(うたきち)うきよ暦>シリーズの第四弾で、完結篇として構想されるも残念ながら未完になった作品である。

 男子禁制の武家の奥向きで芸を披露するお狂言師のお吉は、お小人(こびと)目付・日向新吾と岡本才次郎の手駒を務め、日向とお吉は想(おも)いを寄せるようになっていた。

 大奥がらみの疑惑を追う日向たちは、お吉から、お狂言師が同性愛の相手をする「といちはいち組」に引き込まれているとの話を聞く。その頃、母を亡くし父との男所帯になった日向は、武家の娘との縁談を勧められ、お吉は家を出て稽古所を開きたいが家族に反対されるなど、二人は私生活でも転機を迎えていた。

 武家の日向と結婚すると、お狂言師を続けるのが難しくなるお吉は、独立を援助したいと申し出た男の言葉に揺れ、芸の才能ゆえに同門の先輩の嫉妬にも悩まされる。お吉が迫られる人生の選択は、現代でも起こり得るだけに、特に女性読者は共感が大きいのではないだろうか。

 最終章が書かれていないので事件と恋の顛末(てんまつ)は分からなくなった。ただ読者が続きを自由に想像できるので、永遠に終わらない物語になったともいえるのだ。

 未完ながら、逆境でも人は生きなければならない、というテーマは明確に読み取れる。著者が死と向き合いながら残したメッセージは、重く心に響いてくる。

 (講談社・1836円)

 <すぎもと・あきこ> 作家。著書『東京影同心』など。昨年12月に62歳で死去。

◆もう1冊

 宇江佐真理著『うめ婆(ばあ)行状記』(朝日新聞出版)。昨秋他界した作家の遺作で、家族の絆を描く未完の時代長篇。

中日新聞 東京新聞
2016年4月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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