『日本におけるメディア・オリンピックの誕生』 浜田幸絵著

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日本におけるメディア・オリンピックの誕生

『日本におけるメディア・オリンピックの誕生』

著者
浜田 幸絵 [著]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784623074761
発売日
2016/02/25
価格
7,560円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『日本におけるメディア・オリンピックの誕生』 浜田幸絵著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

過熱報道の原点に遡る

 2020年に開催される東京大会を前にして、本年のリオデジャネイロ大会でもくりひろげられるオリンピックでのメディア報道。私たちが当たり前に受けとめているその競い合いは、どのように始まったのか。グローバルで熱狂的な報道合戦を反省するには、成立期に遡って学問的に考察する必要がある。本書は戦前の3つのオリンピック大会に焦点を当て、日本でメディアが果たした役割を実証的に検討する。

 19世紀末に始まった近代オリンピックで、日本選手が初めて優勝して国内で注目を集めたのは1928年のアムステルダム大会であった。それをうけ32年のロサンゼルス大会で日本のメディアはこぞって日本選手の活躍を追い、熾烈(しれつ)な報道合戦が始まる。初めてラジオでオリンピック放送がなされ、新聞社は写真をいち早く届けるためにしのぎを削る。企業はオリンピックを格好の宣伝の機会として利用し、応援歌が募集される。そうして国民意識が形作られた。

 だが、お祭りには政治の影がつきまとう。満州問題で孤立していた日本はアメリカでのイメージ改善を目指す。36年のベルリン大会はヒットラー・ナチスの宣伝の場となり、国際色豊かな報道が失われていく。孫基禎ら朝鮮出身選手の活躍は、日本の国威発揚の色で塗り固められる。中国侵出に合わせて出征や戦闘のメタファーが多用され、英雄美談が形成される。そして、第1回東京大会となるはずだった40年オリンピックの開催地返上……

 著者は放送や新聞(東京・大阪の有力紙と地方紙)や雑誌の報道をデータと表象の両面から提示し、冷静に分析を重ねる。そこで浮かび上がるのは、現代のメディアがオリンピックという最大の国際スポーツイベントをとおして発展し、同時にそのオリンピックを肥大化させ定着させてきた有様である。オリンピックとは何か、その虚構と魅力を批判的に捉える原点がここにある。

 ◇はまだ・さちえ=1983年生まれ。島根大講師。コミュニケーション学専攻。共著に『レジャー・スタディーズ』。

 ミネルヴァ書房 7000円

読売新聞
2016年4月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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