『海洋アジアVS.大陸アジア』 白石隆著

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海洋アジアvs.大陸アジア

『海洋アジアvs.大陸アジア』

著者
白石 隆 [著]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784623075713
発売日
2016/02/10
価格
2,592円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『海洋アジアVS.大陸アジア』 白石隆著

[レビュアー] 村田晃嗣(国際政治学者・同志社大教授)

地域の構図、立体的に

 やはり「地理と歴史の復活」を思わざるをえない。

 著者によると、日本を取り巻く地域は、グローバル化と中国の台頭を受け、東アジアからアジア太平洋へ、さらに、インド・太平洋へと拡大しつつある。そこでは急速な都市化と、人々がよりよい生活を待望する「期待の革命」が進行している。

 中国はアメリカの提供する秩序にただ乗りしている。中国の入っていない安全保障システムの上に、中国をハブとする地域的な通商システムが成立し、中国の国益増大につながっている。そこで、アメリカは軸足を太平洋に移そうとしている。他方、中国は長期的な囲碁のような外交戦略を展開しているが、大国主義と札束外交は反発を招いている。また、国内での熾烈(しれつ)な権力闘争や民心の離反などの難問を抱えている。

 本書の特徴は、東南アジア諸国の緻密でダイナミックな分析であり、著者の最も得意とするところである。アメリカとの関係、中国との関係、そして地理的な条件などから、東南アジア諸国の抱える経済・政治・安全保障の現状と課題が明らかにされ、その共通点と相違点が浮き彫りになる。中国と東南アジア諸国を重ね合わせて論じることで、海洋アジアと大陸アジアを軸にした地域全体の構図が、立体的に理解できる。

 その上で、著者は日本の外交戦略を説いている。日本はこれ以上「身勝手の沙汰、いわゆる虫のよい生き方」(吉田茂)を続けるわけにはいかない。日本は国際的なルールを自ら作れる超大国ではないが、超大国と交渉し、ルールづくりに実質的に関与できる大国ではある。「日本は大国だ、しかし、超大国ではない」という割り切りの上に立って、日本は安全保障と経済の戦略を築かなければならないと、著者は言う。

 豊富なデータに裏打ちされた濃密な議論だが、連続講演を基にしているだけに、語り口は平易である。優れた研究者の情熱と見識を強く感じさせる好著である。

 ◇しらいし・たかし=1950年生まれ。政策研究大学院大学長。著書に『中国は東アジアをどう変えるか』など。

 ミネルヴァ書房 2400円

読売新聞
2016年4月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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