再会を誓ったはずの、詩人の卵たちの不審死 気鋭の初の長編ミステリ

レビュー

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現代詩人探偵

『現代詩人探偵』

著者
紅玉, いづき, 1984-
出版社
東京創元社
ISBN
9784488017903
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

再会を誓ったはずの、詩人の卵たちの不審死 気鋭の初の長編ミステリ

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 米澤穂信の『さよなら妖精』や桜庭一樹の『少女には向かない職業』などを世に送り出してきたミステリ・フロンティアというレーベルらしい、鮮烈かつ痛切な青春小説だ。著者の紅玉いづきは、電撃小説大賞出身の気鋭。本書で初めて長編ミステリに挑戦したという。

 二〇〇四年六月六日、ある地方都市のファミレスでSNSコミュニティ「現代詩人卵の会」のオフ会が開かれた。〈将来的に、詩を書いて生きていきたい〉という志で繋がった九人の男女は、十年後の再会を誓い合う。当時十五歳だった「僕」は、約束の日に同じ店へ行くが、集まったのは五人。来なかったメンバーは自殺などの不審死を遂げていた。彼らはなぜ死んだのか。かつて投稿した詩のタイトルから〈探偵くん〉と呼ばれる僕が、関係者に会って話を聞くことになる。

 まず萩原朔太郎の「殺人事件」という詩の一節〈探偵は玻璃の衣装をきて〉が思い浮かんだ。ガラスの服をまとった探偵のように、「僕」は脆く繊細な印象を与える青年だ。大学卒業後、コンビニでバイトをしながら細々と創作を続けている。久しぶりに仲間と会ってもろくにしゃべることもできない。手放しに自分の作品を褒めてくれた友達との関係さえ拗(こじ)らせているコミュ障だ。しかし、彼のぎこちないけれど真っ直ぐな問いは、遺された人たちから思いがけない真実を引き出すのだ。

 寡黙な男が〈優しい死に方〉を選ばなかった理由、難解な詩を作っていた建築士の秘密の仕事場……。どの謎も解かれたあとになんともいえない寂寥感が残る。敢えて流れを止める位置に読点を打った文体は癖が強く、万人受けするとは言いがたい。ただ、一つひとつの単語が重みを増し、切実に響く。例えば、親しい先生を亡くした学生が、思い出を語るくだりには胸を打たれた。登場人物と似た孤独を抱えた誰かに寄り添う言葉を届けたいという、作家の渾身が伝わってくる。

新潮社 週刊新潮
2016年4月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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