『昨日ヨリモ優シクナリタイ』和合亮一著
[レビュアー] 産経新聞社
東日本大震災から5年。大津波と原発事故に見舞われた福島から言葉を発信し続けた詩人が、新たな書き下ろし詩集を編んだ。
収録された79編では、原発の放射能測定や除染作業の様子が書かれ、大切な人を失った人たちの悲しみもつづられる。一見優しい響きのこんな詩の一節にはっとする。〈あの日から/ばらばらのままの/記憶の一室がある/そこには 誰も足を踏み入れないまま/本棚は倒れたまま 壁と窓はひび割れたまま〉(「図書室」)。メタファーとアイロニーをしみ込ませた平明な言葉が、心の深い部分にそっと触れる。風化の流れに抗(あらが)うように。(徳間書店・1800円+税)