悪人を斬る刀鍛冶が活躍する新シリーズ

レビュー

4
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刃鉄の人

『刃鉄の人』

著者
辻堂魁 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041040249
発売日
2016/03/25
価格
648円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

悪人を斬る刀鍛冶が活躍する新シリーズ

[レビュアー] 末國善己(文芸評論家)

 辻堂魁は、臨時に雇われて武家の財政を立て直す渡り用人の唐木市兵衛が、算勘の才と剣の腕を活かして不正を暴き、悪と戦う〈風の市兵衛〉シリーズで、一躍、人気作家となった。その後の活躍は改めて指摘するまでもないが、悪を許さない読売屋(瓦版屋)の水月天一郎が活躍する〈読売屋 天一郎〉、切腹の介錯を行う別所龍玄が、表沙汰にできない武家のトラブルを解決していく〈介錯人別所龍玄始末〉など、幾つもの人気シリーズを発表している。

 これまでも特殊な技能を持ったヒーローを生み出してきた著者が、新シリーズ『刃鉄の人』の主人公に選んだのは、刀鍛冶にして新陰流の達人でもある一戸前国包である。

 武器としてだけでなく、美術品としても愛玩された刀剣は、古くから蒐集や鑑賞の対象になってきた。近年は、刀剣を美男子に擬人化したオンラインブラウザゲーム『刀剣乱舞』のブームもあり、刀剣に興味を持つ若い女性も増えているようだ。作中には、大量生産品の「数打物」と、銘が刻まれた名刀との作り方の違いを始め、刀剣の幅広い情報が盛り込まれており、著者や時代小説のファンはもちろん、刀剣が好きな方も満足できるだろう。

 大坂城落城の日。農民兼刀鍛冶の包蔵(国包の祖父)は、大坂方で戦うも敗北。村に帰る途中で徳川方の友成数右衛門を助けた包蔵は、友成家の養子となり、宝刀〝来国頼〟を受け継ぐ。

 それから約九十年後、太平の世となった元禄十六年。武士を辞め、刀鍛冶の技術を学んだ一戸前兼貞の養子になった国包は、四十七歳になっていた。いまは妻の富未との間に生まれた娘の千野、国包の生家・藤枝家にいた頃から仕えている老僕の伊知地十蔵の息子・清順を弟子にして、「数打物」の刀で生計を立てながらも、時折「武蔵国包」の銘を刻んだ名刀を打っていた。

 ある日、国包は、家宝の〝来国頼〟を贈ってくれた本家筋の友成家のご隠居に呼び出される。将軍綱吉の側近で川越藩主の柳沢吉保は、班目新左衛門に新田開発を命じるが、計画は進まず、新左衛門の息子・右近は、逆らう農民三人を斬殺した。農民たちは右近への軽い処分に激怒し、前年に起きた旧赤穂藩士の吉良邸討ち入りに倣い、右近を討つとの噂も出ていた。ご隠居は、かつて新陰流の大泉道場の俊英だった国包に、農民を暴発させないため、秘かに右近を殺して欲しいと依頼。この計画は吉保も承認しているという。

 種田流の槍の使い手で「槍の新左衛門」の異名をとる新左衛門は、あくまで息子の右近を守ると決め、剣術が得意な家臣・荒尾重太が推薦した神谷兄弟を用心棒に雇う。大泉道場で剣を学んだ神谷兄弟は、国包の弟弟子にあたるのだ。一方、国包は、老練な剣客の十蔵に加え、弟子の千野、清順を指揮して、右近を倒す準備を進めるのである。

 剣豪小説は、剣と剣の戦いを描くことが多いが、本書は、剣の国包と槍の新左衛門の決闘に向けて物語が進んでいくので、異種格闘技を見るような面白さがある。槍は剣よりも間合いが長く、剣は先制攻撃に耐えた後にしか反撃のチャンスはない。そのため剣は圧倒的に不利なのだが、この弱点をいかにして国包が打ち破るかが後半の焦点になる。国包と新左衛門が対決するクライマックスは、剣豪小説史に残る迫力といっても過言ではない。

 新左衛門は地位を利用して、右近の罪をもみ消そうとする。現代も、狡く立ち回った人間が得をすると思われているだけに、悪に挑む国包が痛快に思えるのではないだろうか。ただ国包は、正式な裁判を経ず、私的制裁を加えている自分を正義の味方とは考えていない。著者は、悩む国包を通して、目の前の悪を許さないのが正義なのか、それとも法で裁くのが正しいのかという普遍的な問題も問い掛けているので、考えさせられる。

 タイトルにある「刃鉄」は、どんな刀にも形を変えるので、先の読めない未来の象徴として使われている。国包と二人の若き弟子が、難事件を乗り越えることでどのように成長するのか? 楽しみなシリーズになりそうだ。

◇角川文庫◇

KADOKAWA 本の旅人
2016年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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