『古代東アジアの女帝』 入江曜子著

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古代東アジアの女帝

『古代東アジアの女帝』

著者
入江曜子 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784004315957
発売日
2016/03/19
価格
842円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『古代東アジアの女帝』 入江曜子著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

男性支配の偏見を打破

 冒頭、著者は高らかに述べる。「これまで女帝は中継ぎの存在、あるいは巫女(みこ)的な役割などその存在を矮小(わいしょう)化されてきた。しかし、それは古代社会を男性中心に考える歴史観の偏見にすぎない」「時系列に従って箇条書き的に事柄を並べる正史の底流を繋(つな)いでいくと、逆に、伝統に依存した男性支配の政治の停滞と破綻が見えてくる」。本書は、推古から持統までのわが国の女帝たちと、新羅の善徳、真徳女帝、武則天と都合9人の鮮烈な生涯を掘り起こし、東アジア史を読み直そうとした試みである。

 なぜ、この時代に女帝が輝いたのか。7世紀は唐が新しい華夷(かい)体制を確立しつつある中で、朝鮮の三国が揺れ、唐・新羅に対して百済を救援すべく、日本が海外出兵(白村江の戦い)に踏み切った激動の時代であった。著者は鋭い人間観察で女帝たちの実像に迫り、激動の時代にあっては性別よりも強靱(きょうじん)な資質が尊ばれたと主張、推古が善徳のロールモデルとなり、天智の実妹、間人(はしひと)が大王に即位していたと考え、天智の后(きさき)、倭姫(やまとひめ)を天智朝と天武朝のあいだのミッシング・リンクとして位置付ける。それぞれの仮説は魅力的だが、圧巻はやはり、遠謀深慮の持統と50年権力の座にあった武則天の記述だろう。

 中国を統一した唐は、北魏、隋、唐と続く鮮卑・拓跋部が建てた国だ。遊牧民の拓跋部では女性の地位が高く、5世紀後半には均田制を施行した馮太后(ふうたいごう)が都の平城で権力をほしいままにしていた。僕はここから女帝のロールモデルが始まったのではないかと考える。また、著者は705年の武則天の死で女帝の世紀を終えているが、8世紀後半の称徳まで含めて考えていいだろう。このような尽きない議論も女帝の時代の魅力に違いない。80歳を超えてなお、「事実は何か。それだけを考えて」という大学時代の恩師(故・村山光一氏)の励ましの言葉を胸に、新しいジャンルに挑み、労作を書き上げた作家に深い敬意を表したい。

 ◇いりえ・ようこ=1935年生まれ。『我が名はエリザベス』で新田次郎文学賞。『紫禁城の黄昏(たそがれ)』を共訳。

 岩波新書 780円

読売新聞
2016年4月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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