『自由について 金子光晴老境随想』
[レビュアー] 産経新聞社
還暦を迎えた反骨詩人が昭和30年から死の2年前の48年までにつづった随想39本とインタビュー1本を収めている。古いものだが内容はすこぶる清新だ。
《今日の若い世代がもっている「正義派」のきまぐれともおもえるイノセントぶりが、相当な来歴のある人生のタレントたちを屡々(しばしば)、コロリとまいらせる》(38年)に、いつの時代も変わらないとため息をつき、《日本人の口にするりべらりずむや、ひゅうまにずむは、現実をはぐらかす煙幕にすぎないのだ》(40年)に、その言葉を口にする人々の底の浅さを思う。孤高の天邪鬼(あまのじゃく)ここにあり。(中公文庫・840円+税)