巨匠クランシー亡き後も続くシリーズ最新作

レビュー

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米朝開戦(1)

『米朝開戦(1)』

著者
マーク・グリーニー [著]/田村 源二 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784102472613
発売日
2016/02/27
価格
637円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

巨匠クランシー亡き後も続くシリーズ最新作

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 本書の表紙を見て一瞬ギョッとしたのは、タイトルに「トム・クランシー」と付されていたから。クランシーは三年前に亡くなっているわけで、よく見るとさらにその下に「マーク・グリーニー著」とある。

 そう、本書はハイテク軍事スリラーの巨匠クランシー亡き後、ジャック・ライアン・シリーズを引き継いだ「冒険・諜報小説」界の旗手グリーニーの単著なのである。

 クランシーとグリーニーの共作はシリーズの既刊『ライアンの代価』からスタートして、『米中開戦』、クランシーの遺作となった『米露開戦』と続いてきた。タイトルはいかにもストレートな軍事小説っぽいが、中身は国際諜報小説に冒険軍事アクションをプラスした歯切れのいい活劇もの。その面白さは、訳者の指摘通り『暗殺者グレイマン』シリーズでストーリーテラーぶりを遺憾なく発揮しているグリーニーの筆力に因(よ)るところが大きかったに違いない。

 もちろん彼の単著となった本書でもボルテージは落ちていない。北朝鮮を敵役に、全四巻一気通読の快作に仕上がっている。幕開けはヴェトナム、ホーチミン市。米大統領ジャック・ライアンが創設した極秘民間情報組織〈ザ・キャンパス〉の面々は、国家情報長官の依頼で、ある情報企業の取引にやってきた元CIA局員の男を監視していたが、それは北朝鮮の陰謀に関わるものだった。男は取引を拒むものの、突然現れた北の工作員に殺されてしまう。

 北の独裁者・崔智勲(チェジフン)はICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発を急いでおり、その資金稼ぎにレアアース鉱山の採掘を進めていた。それを察知したアメリカ政府は北の目論見を探るべく動きだし、〈ザ・キャンパス〉も独自に調査を始める。

 タイトルからすると、崔智勲の暴走を食い止める単純なアクション篇を想像されるかもしれないが、話作りはそう単純ではない。ライアン大統領と〈ザ・キャンパス〉は北の陰謀に別々の方向からアプローチすることになるし、北も北で、計画にしくじれば将軍とて粛清されてしまう恐怖の実態がとらえられている。

 中盤以降は、横槍を入れてくるアメリカに業を煮やした崔が大統領暗殺を命令、その計画も並行して進んでいく。現実の国際情勢を反映させたドラマ演出の合間に、女スパイとのコンゲームやニューヨーク地下鉄内の攻防、大統領暗殺テロといった迫真のアクション演出をまじえ、まさに巻をおく能(あた)わず。巨匠亡き後もこのシリーズは安泰だ!

新潮社 週刊新潮
2016年4月21日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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