『外道クライマー』 宮城公博著

レビュー

5
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外道クライマー

『外道クライマー』

著者
宮城 公博 [著]
出版社
集英社インターナショナル
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784797673173
発売日
2016/03/25
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『外道クライマー』 宮城公博著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

規範、良識飛び越えて

 冒頭のかなりユニークな用語解説に、

 〈※沢ヤ 沢登りに異常なこだわりをもった偏屈な社会不適合者〉とある。

 挑発的なタイトルと装丁の雰囲気も相まって、一瞬、触れると危険な気がした。が、恐る恐る手に取ったが最後、気づけば夢中になって読んでいる。

 用語解説の後の第一章からして衝撃的だ。クライマーである著者は四年ほど前、和歌山県の那智の滝を登って逮捕され、職を失った。以後、国内外でいくつもの挑戦的な冒険を続けてきたという。

 藪(やぶ)をかき分け、泥に埋まり、虫にたかられながら道なき道を進む。凍った滝を登り、真冬の川を素っ裸で泳ぎ、密林の激流に流されて命の危機にさらされたかと思えば、今度は巨大なヘビと格闘している。台湾の大渓谷、富山県の称名滝に残る空白部「称名廊下」、四六日間にわたるタイのジャングル初遡行(そこう)……。「自然の内院」と自ら呼ぶものに分け入っていく荒々しい登攀(とうはん)の数々に、幾度となく唖然(あぜん)とさせられる。

 だが、何よりも抗(あらが)いがたい魅力を感じたのは、それを読ませる楽しすぎる文体だった。自然とのぎりぎりの格闘やその中での人間模様をここまでユーモラスに、サービス精神旺盛に描きながら、冒険の本質にも同時に迫ろうとする有り様。そこから「沢ヤ」の矜持(きょうじ)が伝わってくる。一人の冒険家の生きる上での剥(む)き出しの欲望が、あられもなく溢(あふ)れ出てくる様子を間近で見せつけられているかのようなのだ。

 著者は行動だけではなく、様々な規範や良識の一線を、書くという表現においても飛び越えていく。その度に声を出して笑い、自然とは、冒険とはこのようなものなのか、という驚きを覚えるうち、心が次第に自由になっていく気がした。近年、傑作ぞろいの冒険・山岳ノンフィクションの列に、新たな一冊が加わったと言えるだろう。

 ◇みやぎ・きみひろ=1983年、愛知県生まれ。ライター、登山ガイド。国内外で数々の初登攀記録を持つ。

 集英社インターナショナル 1600円

読売新聞
2016年4月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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