『第一次世界大戦史』 飯倉章著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

『第一次世界大戦史』 飯倉章著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

「現代史の起点」を概説

 日本で「大戦」といえば第二次世界大戦を指すが、ヨーロッパでは第一次世界大戦を指すのが一般的である。4年もの間直接の戦場となり、軍関係者だけで850万人という未曽有の死亡者を出したと言われるヨーロッパでは、同大戦はいまだに「現代史の起点」として重視され、人びとの間でもよく記憶されている。

 ヨーロッパでは2014年に開戦100年を迎えたのを機に研究が活性化している。一例として、オックスフォード大学の歴史家クリストファー・クラークが12年に発表した著書『夢遊病者たち』が挙げられる。同書は、開戦責任をドイツに負わせる従来の通説的理解に疑問を呈し、欧米でベストセラーとなった。14年には、最新の研究成果を集成した大著『ケンブリッジ第一次世界大戦史』全3巻が刊行されている。

 このように続々と生み出されている著作をフォローするのは、専門家にとっても容易ではない。多くの著作が日本のことを意識せずに書かれ、日本でも第一次世界大戦が半ば「忘れられた戦争」になっている現状では、なおさらのことである。そうした中で、最新の研究を咀嚼(そしゃく)した上で、大戦の展開を日本人向けに解(わか)りやすく説明したのが、本書である。一貫して政治指導者の動向、政治外交と軍事の展開に焦点を当てながら、生き生きとした叙述がなされており、非常に読みやすい。興味深い逸話とともに紹介されている多数の諷刺(ふうし)画も、理解を助ける。

 日本と大戦の関わりは主題ではないが、この戦争が日本にとってどんな意味を持ったのかも考えさせられる。著者は、日本は戦争中に中国に対華二十一ヵ条を提出して権益を拡張したが、三国同盟を離脱して領土拡大を図ったイタリアのエゴイズムには到底及ばず、多くの東欧諸国も利己的行動を取ったと指摘している。日本であまり知られていないイタリア戦線、東部戦線に記述を割いているのも、本書の特色である。優れた概説書であり、広く一読を勧めたい。

 ◇いいくら・あきら=1956年、茨城県生まれ。城西国際大教授。著書に『イエロー・ペリルの神話』など。

 中公新書 840円

読売新聞
2016年4月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加