『鎌倉幕府と朝廷』 近藤成一著

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鎌倉幕府と朝廷 : シリーズ日本中世史 2

『鎌倉幕府と朝廷 : シリーズ日本中世史 2』

著者
近藤 成一 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784004315803
価格
886円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『鎌倉幕府と朝廷』 近藤成一著

[レビュアー] 清水克行(日本史学者・明治大教授)

空前の権力に潜む謎

 たまたま通りかかった近所の書店で日本中世史家・網野善彦のフェアが行われていた。脇のポップには「全ての日本人が読むに値する数少ない本」「今読んでいる本をやめても読んで欲しい」と、少々大げさなあおり文句。たしかに良い本には違いないのだが、網野が没してすでに12年、代表作の一つ『蒙古襲来』は40年も前の著作だ。この間、中世史研究が何も進歩していないと思われると、少々寂しい……。

 その点、現在刊行中の岩波新書の日本中世史シリーズは、新書4冊でこの分野の最新成果が通覧できるのだから、至便といえるだろう。10年前、近現代史編(全10巻)から始まった本シリーズも、今回の中世史編でいよいよ完結である。

 ただ、本シリーズは限られた分量に一つの時代を詰め込むため、気を抜くと政治的な事実が羅列され「年表」のようになってしまい、とかく「物語」としての面白みが犠牲になりがちである。その弱点を補うべく、これまでの各巻執筆者はいずれも得意分野で通史に独自の「味つけ」を施している。

 中世史シリーズ第2巻にあたる本巻は、鎌倉幕府の成立から滅亡までを主題としているが、とくに古文書の形式から得られる情報や、幕府の裁判のあり方について、具体的で踏み込んだ説明がなされている。それらの「味つけ」によって、「僻遠(へきえん)の地」鎌倉に生まれた幕府が150年間、どのようにして権力を拡大していったかが詳(つまび)らかにされる。

 そして最終的に幕府は、天皇を任命することまでできる空前の権力を手にするにいたる。しかし、その彼らも、なぜ自らが天皇にとってかわる道を選ばなかったのか? 巻末では、その壮大な謎の皮肉な答えも明らかになる。

 この後に続く巻では、通史にどのように個性的な「味つけ」がなされるのか、続刊が期待される。

 読者諸賢、「ポスト網野」の中世史研究の達成に刮目(かつもく)されたし!

 ◇こんどう・しげかず=1955年、東京都生まれ。放送大学教授。著書に『鎌倉時代政治構造の研究』など。

 岩波新書 820円

読売新聞
2016年4月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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