『工学部ヒラノ教授の介護日誌』 今野浩著

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工学部ヒラノ教授の介護日誌

『工学部ヒラノ教授の介護日誌』

著者
今野浩 [著]
出版社
青土社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784791769117
発売日
2016/02/24
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『工学部ヒラノ教授の介護日誌』 今野浩著

[レビュアー] 岡ノ谷一夫(生物心理学者・東京大教授)

 著者は「工学部ヒラノ教授」シリーズで、世に理解されることの少ない理系研究者の生態を軽妙洒脱(しゃだつ)に描いてきた。だが本書は、これまでの作品とは全く異なり、壮絶な老老介護を描く。子育てが一段落し別荘が完成した直後、ヒラノ教授の妻は心臓の病にかかる。その数年後、脊髄小脳変性症という難病を患う。金融工学の専門家である著者は、仕事と介護の時間配分、手持ちの資産で最適な介護を行うにはどうしたら良いか等々、常に冷静に判断を重ねてゆくはずであった。

 ところがある深夜、痛みと恐怖で泣き叫ぶ妻に、ヒラノ教授は暴力をふるう。冷静な判断を重ねてきた著者の豹変(ひょうへん)に、私は戦慄した。同時に、そのような行為に至る必然も感じた。事実としての行動しか書かれていないが故に、私は著者の語られない辛苦を追体験せざるを得なかった。人が老いて死ぬ以上、介護する行為は、その人の作品や業績と同じように評価されるべき人間の営みだと感じた。人であることの普遍的な悲しみを描いた作品であると同時に、老老介護の一事例を非常に具体的に伝える実用書でもある。

 青土社 1800円

読売新聞
2016年4月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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